アカシアの花と共に…。
さんまぐ
序章・お付き合いの始まり。
第1話 歳の差は22歳。
梅雨明け間もない8月のある日。
男はいきなり告白をされた。
「市原さん、私と付き合ってください」
これは喜ぶ場面だろ?
普通ならそう思うかもしれないが、男には喜べない事情がある。
男の歳は48歳。
告白をしてきた女性は26歳。
歳の差22歳。
親子ほど歳が離れているのに、食事の帰りに告白をされた。
「えっと…、広島さん?」
男、市原は目の前の女性、
「仕事で頼りになります。穏やかで一緒にいて落ち着くからです」
ハッキリ答える広島紫に市原は困惑してしまう。
22も歳の違う娘と何をしろというのか、周りが知れば沸き立ち冷かしてくるだろう。
非モテ独身男性達に夢を与える存在としてさぞかし眩しいだろう。
眩しいのは心許なくなり始めた頭髪ではない。
そう思いたかった。
「キチンと話をして、納得をしあってからにしよう」
さぞかし周りには異質に映るはずだ。
年老いた男が若い女性を拒み、若い女性が年老いた男に熱烈にアプローチをしかけてくる。
「
知っている。
市原黄汰は心の中でそう思いながら、4月からの4ヶ月を思い出していた。
思い出したが、納得できる答えは出ない。
なんでこうなった?
ごく普通に仕事をしていた。
それなのに8月の中ばに、なんで22歳も年下の女性に告白をされる?
4月、勤め先のファミレスで新店舗開店の話が出た。
市原黄汰は店舗勤めは30代の時には終わらせていて、今は本部でトレーナーとして勤務している。
本部勤めになると、土日に休みが取りやすくなる。
市原黄汰がやっているトレーナーになると、新規開店やクレーム店舗のトレーニングなんかで土日に出勤にもなるが、それでも過酷な店舗社員時代からすれば人権に溢れている。
新装開店に合わせてアルバイトは募集するが、社員は現存する人員で配置する事になり、余剰戦力を他店舗から分けてもらう事になる。
社員達はある種玉石混交。
当たり外れ、相性がデカい。
当たりであれば、未来の店長候補。
見込みのある人間を鍛える為に新店に送り込む。
外れは、ていのいい厄介払い。
見込みのないお荷物社員、いてもいなくてもいい奴が外に出される。
中には相性問題もある。
店長と相性の悪い社員が飛ばされてくる場合もある。
この広島紫は相性問題だった。
だが、それに気付くのは開店直後の事だった。
新規開店は協調性が肝になる。
無論、ノリの良さだけでなんとかなるものではない。
それなのに、広島紫を送り出した店長が出していた、広島紫の評価は協調性が低かった。
よく捉えれば協調性を養う為に新店送りにされたと思えるが、どう見ても厄介払いだった。
激戦区とあだ名がつく店舗で、キチンとホール社員を2年も続けていて、問題行動もない。
それなのに評価が低く、上申書には協調性のなさが記されていた。
なので、市原は広島紫に期待せず、一労働力として広島紫を扱った。
・・・
開始数日の広島紫の評価は悪くなかった。
開店前のトレーニング期間で、アルバイト達を交えてロールプレイをして、店舗営業のイロハを叩き込んでいく。
ここで最初に足を引っ張るのはアルバイトより社員で、真剣さと気負いを勘違いしているアルバイトの緊張を解きたい目的で、軽口を叩き、それがアルバイト達の誤解と増長を招く、
中には基本の接客五大用語の唱和を照れくさそうにやる輩もいて、そういう輩には悪いが見せしめに遭ってもらう。
そんな中でも広島紫はキチンと手を抜かずにトレーニングに注力し、バイト達のフォローも忘れない。時給が発生しているトレーニングだという事を嫌味なくアピールした上で、キチンとアルバイト達の疑問にも答えて行く。
だが、市原黄汰はそれくらいでは認識を改めない。
社員の本懐は混雑時の対応にある。
どれだけ綺麗事を語っていても、混雑時に本性があらわになる。
オープンから数日はクーポンも配るので客入りは半端ない事になる。
だが、広島紫は流石に激戦区で2年も勤め上げただけあって、多少の混雑にはおたつかない。
バイトリーダーにしようと決めているアルバイトに目をかけ、フォローを欠かさず、それでいて依存させないように突き放していた。
それは半月が過ぎても変わらずにやりきり、週一日の休みしか取れない中でも崩れずにいた。
こうなると話は変わってくる。
広島紫の評価を下げた激戦区の店長が、部下の人となりを見きれていないケース。
まだ捨てきれていないのは、広島紫が本部勤務の人間にだけ媚びへつらう人間のケース。
なんにせよ、エリアマネージャーと激戦区の店長の評価に、マイナスの評点がひとつついた。
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