7.回収

大昔の夢を見た。




過去の担当勇者の中では、比較的、立派な方の勇者が出て来た。俺は元々、ドライな仕事ぶりを買われ、精神的にきつくて新人が根を上げたり、アクシデントで急に変更になった勇者に付き、クライマックスのフォローを担当する事が多かった。


その時は、ラスボスを倒す前に、勇者は二回、恋人に死に別れていた。一人は幼馴染みの魔導師の女性で、彼の村が魔王の手下、一番弱いNo.7のボスに襲われた時に拐われた。No.5のボスに洗脳され、敵として出現し、「救うには倒すしかない」状況で、勇者の手に掛かった。


次の恋人は、パーティ仲間の格闘家の女性だった。俺が交代する直前、勇者をかばって、No.3のボスと刺し違えて、殺されてしまった。最終的に、回復魔法使いの王女と恋愛させなくてはいけなかったが、これだけ残酷な二回の死に別れで、彼はすっかり、恋愛には背を向けていた。二の足を踏むようになっていた。王女が内気なタイプだったことも、進展しない理由だった。


しかし、No.2のボスを倒す時に、「愛を誓いあった恋人同志」が必要だった。前任者はNo.5のボスを倒した後、順調に王女との恋愛が進まず、悪女タイプの格闘家と急接近するのに、焦りすぎてこじらせた。その結果、狙った訳ではないのに、新しい恋人が死んでしまった。重要な仲間だった彼女が亡くなった事で、前任者ははずれ、俺に回ってきた。


俺は、メインの恋愛関連は、思いきって、ラスボスを倒すまで、うっちゃっておいた。No.2のイベントの時は、親友の槍使いと、攻撃魔法使いである、第二王女のペアに任せた。幸いな事に、No.2から、ラスボスの間はしばらく空き、最強武器や魔法の取得イベントがあり、恋愛どころではなかった。恋人の死で厭世的になっていたのを、再び前向きに世界を救う方に向くのを優先した。


二人が望みの関係になるのは、ラスボスを倒した後、俺が任務完了した後だった。


最後に、二人を見たのは、二番目の恋人の眠る墓地だった。彼女は庶民だが、勇者の一行だったので、騎士と並んで埋葬されていた。


王女が、故郷での埋葬も可能だが、いいのか、と尋ねた。


≪彼女の故郷は知らないんだ。すごい因習のある、田舎の村で、12の時に、親と村長を半殺しにして逃げた、と言ってた。


『死んでも戻りたくない』って話してた。都会の華やかな雰囲気が好きだったから。それに、王都のほうが、俺も皆も、


気軽に墓参り出来る。≫


≪では、貴方は、王都に残って下さるの?≫


≪ああ。役にたてるかどうか、解らないけど。≫


彼は、静かに墓を見下ろしていた。王女は、一瞬、笑顔になったが、はっとして、また、穏やかな顔に戻った。


≪じゃあ、また、しばらく、よろしくお願いします。≫


彼は、その言葉に振り返り、


≪何だよ、今更、というか、また旅に出る気か?≫


と、笑顔を向けた。照れた王女は、


≪私は、まだ、お城の外で、勉強することが沢山あると思うの。貴方の…皆の役に立ちたくて。≫


と、赤い顔で微笑んだ。




穏やかな会話だった。恋の予感と言うのではなく、共に戦った仲間同士の、絆の固さを感じさせた。恋愛面を捨てたつもりだったので、成功クエストかどうかと言われると、微妙だった。結果オーライだが、次回からは考えるか(とはいえ、ラスボスと王女の両方にこだわれば、失敗しただろうが)と想っていた。


それだから、ホプラスとディニィの時は、恋愛面にも重点を置いた積もりだった。


とは言え、今になって、わざわざこんな夢を見るほど、以前は彼らには、思い入れはなかった。ごく短期のピンチヒッターなのだから、、背後型なら、それが普通ではある。前任者は、結婚相手しか自由にならない王女に、えらく同情して、思い入れがあった、と聞いていた。背後型でそれなら、融合型だとどうなるか。ふと浮かんだ疑問だが、その時は、やはり背後型が良い、融合型は嫌だな、自分がもし、融合することになったら、早急に回収して貰いたいと思うだろう、と単純に考えた。


それが簡単に覆るとは、思わなかったが。




夢が覚める間際、勇者の名前が、「ローディ」、そこの言葉で、「柘榴」を意味していた、と思い出した。髪は赤毛では無かったが、目が、珍しい柘榴のような赤みの強い茶色だったからだ。




目覚めて辺りを見回す。グラナドの姿を探した。銀色の部屋の中に、臙脂色の像を見つけて、目を留めたが、それはグラナドではなかった。


連絡者と、上司がいた。あとは、臙脂色の上着を着た連中が数人。


「気がついたか。予想より、大分早かったな。良かった。」


と上司が言った。臙脂の一人が、


「新型ですから。」


と、感情のない声で言った。連絡者と目があったが、彼女は、複雑な表情で俺を見ながら、


「おかえりなさい、と言っても、良いのかしら。」


と言った。


俺は、はっとして、自分を確認した。






ここは超越界の医務室、俺は、「回収」されていた。


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勇者達の翌朝・新書(中編3) L・ラズライト @hopelast2024

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