第10話 お先真っ暗
ㅤ雫の手元には、今度は黒い石粒が握られている。
(物騒な色だが、どうしてだろう――今度のは使い方がはっきりわかるな)
ㅤこれを使えば、次は坪内のクソ野郎を殺すこともできよう。
「俺の血から生まれた――人喰いの力、これが。
ㅤ今度来たら、絶対にみまってやる。本当になんなんだあの女、いきなり襲いかかって。
ㅤ……逃げきれたのかよ、俺は?」
ㅤいやでもまた学内でエンカウントするだろうことはわかっている。
ㅤ紫の石粒の効果は、ぶっつけ本番だったこともあり、正直内容がわかっていない。
「この粒を生成できるのはいいが、
ㅤ本当にそうなら、なぜ今まで発現しなかった」
ㅤ殺されかけてようやく覚醒するなどと、不便極まりない身体だ。
「伝承から考えるに、真っ先にあがる龍の混血なんかが俺ほど貧弱ってことはないだろうし、すると名前のある奴らは限られてくるんだが……そもそも確か、過去の統計では混血に魂魄鎧は使えないはずだろう?
ㅤ俺は感知系といえ、一応は魂魄鎧が出せてるし。
ㅤ坪内の言うことが本当だとしたら、あいつから聞き出すのが一番だけど、怖いし。
ㅤそもそも殺さないとまた殺される――証拠を残さずは難しいかもしれないけど、あいつを生かすメリットないし」
ㅤグラフというものを視覚的に把握はできても、これまで使ってこなかった眼筋と視神経にいやな負荷がかかって、ながらくの勉強は物理的に困難だ。
「さっきの
ㅤいやでも、無尽蔵にできるかは怪しいし。
ㅤ仮に代償がとられるなら、迂闊にやりたくないな。作って消耗するならプラマイゼロだ」
ㅤこいつを辿れば、俺の血の起源に至るだろうか。
(今更俺を捨てた親達に興味はないけど、力を制御できなければ、この先学生を続けられない)
「そもなんで、俺は勉強なんてしてたんだっけ、進学までして」
ㅤ林檎姐ととも世話になった施設は在学中に潰れ、最初は育ててもらった恩を返そうと必死だったが、今の俺は本籍地が宙ぶらりんだ。一応は寮の名義で凌いでいるが、退学させられたら、このままだと本当に行き場がなくなる。
「目も見えず、ろくな魂魄鎧も使えないままで……力を拾ったところでろくにそれを活かす生存戦略がない」
ㅤ――国の扶助におんぶに抱っこで依存して寄生してる屑のくせに、挙句人殺しって……死ねば色々考えなくて済むわよ。
ㅤいやいや、あの言葉が優しく聞こえてくるとしたら、その時点でもう正気じゃないだろ。
「やめだ、もう寝よ」
ㅤお先真っ暗もいいところだ、俺には守るべき誰かもいなければ、自分の身すら守れないか弱いなにか。
ㅤいったい、なんなのだと?
ㅤとかく血も使ってからずっと瞼も重い、借り物のベッドへ寝転がり、夢のない眠りへと落ち着くのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます