4-03
わたしの返事に、友梨亜様は虚を突かれたような顔をしました。
そして――
「……っふ……ふふふっ……あははははっ……!」
『残念だったなァ、友梨亜』
「ええ……ええ……! でも、傑作でしたわ! ああ、深堂院さんのそのセリフを聞けただけでも、わたくしは満足です! ああ――ああ! なんとも愛おしい御方……!」
『よくわからんが、交渉は決裂ってこったなァ……じゃあ、行くぜェッ!』
マイク・マクドナルドの言葉とともに、ステージ上の交響楽団が膨れあがり、あっという間にステージを呑み込みます!
『志摩、四方からくるぞ!』
ホンダさんは触手アイの映像をわたしの脳内に投影して、大講堂周辺の様子を見せてくださいました。
学園中に溢れていたゲルが一斉に増殖をはじめ、すさまじい勢いで膨張しつつ、大講堂へとなだれこんできます!
わたしはあわてて自分のまわりに触手の檻を巡らせます。
ドーム型の檻が完成したのは、外からなだれこんだゲルがホール中を埋め尽くしたのとほとんど同時でした。
氾濫したゲルは凄まじい圧力でわたしの檻を圧迫してきます。
「くっ……!」
わたしの脳裏を絶望がよぎりました。
ごめんなさい……つぐみさん。必ず帰ると約束したのに、わたし、ここで死んでしまうかもしれません。
しかし――しかし! 友梨亜様のあんな要求を、呑むわけにはいかなかったのです!
青薔薇の君として、そして愛しいつぐみさんのお姉さまとして胸を張って生きていくためには、ぶよぶよとした褐色のゲルがごとき宇宙生物の脅しに屈するわけには、絶対に! いかないではありませんか!
『……摩、……志摩!』
「は、はい……!」
檻の維持に必死で、ホンダさんの声すら耳に入っていなかったようです。
『大丈夫だ、既に手は打ってある』
「本当ですか!?」
『ああ。こんなこともあろうかと、この学園は既に
「テンタク……ライズ?」
『うむ。私の触手を学園中に張り巡らし、学園を私の一部と化したのだ。いまやこの学園は私の庭――いや、私の体内にあるようなものだ』
な、なんということをしてくれたのでしょう……。わたしの愛する花園は、ぶよぶよとしたゲルに呑まれるまでもなく、既にぐねぐねとした宇宙生物の身体の一部と化していたのです!
わたしの脳裏に、ホンダさんの母星の光景が浮かびます。
いえ、そのものを見たわけではないのですが、わたしの中ではそれは無数のミミズにたかられた巨大なミートボールのようなものになっています。
嗚呼、ごめんなさい、花園の皆さん……みなさんの愛する花園は、得体の知れない宇宙生物のはらわたとなってしまいました……。
『別に害はない。単なる気持ちの問題だ』
「そ、そういう問題ではありません……!」
花園はわたしとわたしを慕ってくださる皆さんの誇りなのです!
ああ、でも、殿方にはこのような気持ちはおわかりにはならないのかもしれません。ただの女々しい感傷、お父様あたりならそのようにおっしゃりそうです。まあ、ホンダさんが名前の通りに「殿方」である保証なんてないのですけれど。
『ともあれ……反撃開始だ!』
わたしの脳裏に花園の全景が映ります。ホンダさんの触手アイの映像でしょう。
そういえば、先ほども疑問に思ったのですが、花園がゲルに覆われているというのに、ホンダさんは一体どこに触手アイを置いていたのでしょうか?
その答えは、一瞬後に明らかになりました。
「な……っ!」
わたしは絶句しました。花園の校舎という校舎が一斉にぐねぐねと蠢いたかと思うと、次の瞬間、鮮やかなアザミ色の触手へと変貌したのです!
――クルルォォォォォンッ!
どこかもの悲しい声など上げながら、鮮やかなアザミ色の触手は空へ向かって怒濤のごとく立ち上り、地上数百メートルはあろうかという高さにまで達したかと思うと、今度は反転、花園にはびこるぶよぶよとした褐色のゲル目がけて驟雨のように降り注ぎます!
『志摩――君がコントロールしろ!』
「え、えええっ!?」
わたしはあわてて、怒濤と化した触手のたづなを握ります。
……いえ、簡単に申しましたが、とんでもないことなのはわかっています。しかし実際に、たづなを握ろうと意識した刹那、わたしはその触手たちのたづなを手にしていたのです。
「はあぁぁぁあっ!」
わたしはたづなを操り、触手の流れをコントロールします。
触手は校舎にはびこるゲルを一掃し、大講堂へと侵入します。
触手流の先端に設けられた触手アイの映像が、触手の檻の中で瞑目しているわたし自身を映し出しました。
わたしはそのまま、氾濫する触手をステージ上の友梨亜様目がけて叩きつけます。
友梨亜様――とマイク・マクドナルド――は触手の奔流になすすべもなく呑み込まれました。
『これが、我らぐねぐねとしたアザミ色の触手が心血を注いで編み出した、対ぶよぶよとした褐色のゲル用最終奥義――〈
「対ぶよぶよとした褐色のゲル用最終奥義――〈
わたしはこみあげる戦慄をこらえながらホールを見渡します。
つい先ほどまでぶよぶよとした褐色のゲルが溢れていたホールの光景が一変していました。
今ホールにあるのは、ただひたすらにぐねぐねとした、どうしても性的なものを連想せざるを得ない卑猥な色合いの、のたくりにのたくる触手の海なのです……!
『ふふ……この光景……私の母星の海を見ているかのようだ!』
地球人類が宇宙に繰り出す時代が来たとしても、ホンダさんの母星にだけは行きたくないものですね……。
「それで……友梨亜様は!?」
『む……そうだったな』
「忘れないでください!」
『だ、大丈夫だ……〈
「いえ、友梨亜様のことを聞いているのですが」
どうも、ひさしぶりの大技に興奮しておいでのようですね。ホンダさんは放っておいて、自分で触手をかき分けることにしました。
先ほどの要領でたづなを握り、ホールを埋め尽くす触手の海を操ろうと――
「……っ!? ホンダさん!」
ステージの上、友梨亜様のいらっしゃったあたりが、ゆっくりと膨らんでいきます!
実際、その箇所には触手の感覚がないのです!
感覚のない領域は徐々に膨れあがり――
ぐね……ぐねぐね……ぐね……ぶよ……ぐねぶよ……ぶよ……ぶよぶよ……ぶよぶよぶよ!
――ゲルルルルルルッ! ゲルラ――ッ! ゲルルァァァァ――ッ!
――クルルォォォンッ!? クオォォォォン――ッ! クオ……ッ、……オォォン!
『ば……馬鹿な――! 〈
恐れおののくホンダさんにとどめを刺すようなタイミングで、ステージ上の触手が砲撃でも食らったかのように弾け飛びました!
そして、そこから現れたのは――
『ククク……ッ、アーー――ッ、ハッハッハァッ!』
ホールに高らかな哄笑が響き渡ります!
その声はもちろん――ぶよぶよとした褐色のゲルの分離体、マイク・マクドナルドのものです。
ステージの中央で、友梨亜様がゆらりと立ち上がりました。
その下半身は相変わらずぶよぶよとした褐色のゲルに覆われています。
そのゲルが、ゆっくりと滲むように周囲に広がっていきます。
ゲルの外縁が触手に触れると――なんと、ぶしゅぶしゅと異様な音を立てながら、触手が溶けていくではありませんか!
『こ、これは……一体……!?』
『ハーッハッハッ! ヒィヒィ……ッ、おかしくてたまらねーぜェ! いやァ、まったく、笑わせんじゃねえよ、ぐねぐねとしたアザミ色の触手サンよォ!』
『な、何がおかしい!』
『これがおかしくないものかよッ! ったく……少しでもビビッちまった俺が情けねえじゃねーかよォッ!』
マイク・マクドナルドは高笑いを続けます。腹を抱えて笑い転げているという感じですが、もちろんゲルに腹などあるわけもありません。
「……どういうことですの?」
友梨亜様が聞きました。
『そいつはなァ、ぐねぐねとしたアザミ色の触手の中でも古い株なのさ』
「古い株……?」
『宇宙は広ぇからな。母星を出発してから他の星に辿り着くまでにはどうしたってタイムラグが生じる。俺たちぶよぶよとした褐色のゲルにせよ、ぐねぐねとしたアザミ色の触手にせよ、時には休眠状態になって何年にも渡る宇宙の旅を楽しまなくちゃならねーこともあるんだ』
「ということは……」
『そうさァ、そいつはどうしたことか、母星を出発してからずいぶん長い時間を無為にすごしちまったらしいな。そのせいで、いまや宇宙の常識となったこんなことすら知らねえんだ!』
マイク・マクドナルドの言葉とともに、学園中からぶちゅぶちゅと何か柔らかいものがつぶれるような音がしました。
そして――
『ぐっ……ぐああああああ――ッ!!』
突然、ホンダさんが絶叫しました。
見れば、講堂内に溢れる触手が内側から破裂し、その中からぶよぶよとした褐色のゲルが溢れ出してきたではありませんか!
「ホ、ホンダさん……っ!?」
『〈
だが、俺らはついに〈
『触手の……躍り食い……、ゲル和え……だとっ!?』
最終奥義を破られたホンダさんが、愕然とつぶやきます。
何ということでしょう――ぐねぐねとしたアザミ色の触手が編み出した奥義は、既にぶよぶよとした褐色のゲルによって破られてしまっていたのです!
『その様子じゃ、知らねーらしいなァ』
『……何を、だ』
『〈触手の躍り食い・ゲル和え〉によって、俺らぶよぶよとした褐色のゲルは、第一五〇四次ぶよ・ぐね大戦に電撃的勝利を飾った。現在の宇宙ぶよ・ぐね比を知ってるかァ? 聞いて驚け、なんと九対一だァ!』
『馬鹿な……!』
『信じたくねーなら信じなくてもいいぜェ? お前が信じようが信じまいが、事実は事実だからなァ、ヒャッヒャッヒャッ!』
『き、九対一……だと……』
どうやらホンダさんが休眠していた十年の間に、宇宙の勢力図は大きく塗り替えられてしまったようでした。ぶよ・ぐね比という怪しげな数値のことは知りませんが、おそらく宇宙の九割が彼らぶよぶよとした褐色のゲルの手に落ちた――ということなのでしょう。……ゲルに手はありませんけれど。
『楽しい戦争だったぜィ? お前の同胞が面白いようにバタバタと死んでいった。そう――お前の同胞は、俺らがおいしくいただいちまったってワケさ……ゲルと和えてなァッ!!』
『お・の・れえぇぇぇぇ――っ!!』
「ホ、ホンダさん、落ち着いてください!」
『これが落ち着いていられるかァッ!』
「それでも落ち着くんです! このままじゃ相手の思う壺です!」
『いやァ、そいつはどうかな? 俺の思う壺になろうがなるまいが、時代遅れのロートルにゃ、俺に対抗するいかなる手段もねーんだからなァ! ハーーッハッハッハァッ!』
マイク・マクドナルドはここぞとばかりにホンダさんを煽ります。
残念ながらぐねぐねとしたアザミ色の賢人はこの手の煽りに弱いようで、完全に頭に血が上ってしまっています。まあ、どこに頭があるのか、そもそも「頭」なんてあるのかという問題はあるのですけれど。
『くッ……、だが、たとえ時代遅れになろうとも、私とて
ホンダさんの叫びとともに、わたしの身体からまばゆい光が溢れ出します!
『な、何だァァッ!?』
マイク・マクドナルドが動揺の声を上げます。
『喰らえ――ッ、
『こ……これはァ――ッ!!』
ぶよぶよとした褐色のゲルに内側から食い破られ、微塵に散った触手の欠片が、黒々と禍々しい輝きを放ちながら、黒い雪となってゲルへと降り注いでいきます!
ゲルの体表に付着した極小の触手は、すさまじい勢いで増殖しながらゲルの表皮を食い破り、ゲルの体内へと潜り込んでいきます!
喩えるなら――そう。砂浜に漂着したクラゲの死体に、大量の蛆がたかっているような光景ですね……。
『グッ……グオッ……、グアァァァァ――ッ!』
マイク・マクドナルドが悲鳴を上げます。
わたしには何が何だかわからないのですが、ホンダさんの放った「禁断奥義」は、ぶよぶよとした褐色のゲルに多大なダメージを与えているようです。
しかし――
『……くっ……ぐうう……っ』
苦しんでいるのは、マイク・マクドナルドだけではなく、ホンダさんも、なのです。
ホンダさんの放った奥義――〈
『クッ……やってくれたな……』
マイク・マクドナルドがやや余裕を取り戻した口調でそう言いました。
『
『ぐっ……ぬおおおお――っ!』
ホンダさんとマイク・マクドナルドの力比べがはじまりました。
攻防はまさに一進一退――!
ぐねぐねとしたアザミ色の触手とぶよぶよとした褐色のゲルという宇宙生物の、種族を代表した決戦が、今ここ――セント・フローリア女学園の中で行われているのです! 何故か!
わたしは固唾を呑んでことの成り行きを見守ります。
そのまま、永遠とも思える数秒が過ぎていきました。
そして――
『グッ……!』
『……ふっ。どうやら大勢は決したようだな』
『ソンな、馬鹿ナ……〈ゲル和え〉が……押さレていル……ダ、ト……? ――アァッ!?』
『気づいたようだな。〈
『馬鹿……ナ……わレわレの……、エンザ……コウ……ハ、ゲン重ニ……プロ…クト……さ、レ……』
『〈
『がァ――、ガ、ダが、そレッ、デモ……俺、ハ――負けらレ、ねェンダ、よォ――!』
『くっ! 大人しく負けを認めれば命までは取らぬものを――えぇぇいっ!』
対決は、ホンダさん有利に進みつつあるようです。
マイク・マクドナルドは頑固に抵抗していますが、その口ぶりからうかがわれる内面の苦痛にははかりしれないものがあります。
このまま決着がつくかと思われたその時、お声を上げられた方がいました。
「ね、ねえ――、ちょっと――!?」
声を上げられたのは友梨亜様です。
わたしは友梨亜様の視線を追って――言葉を失いました。
ぶよぶよとした褐色のゲル、ぐねぐねとしたアザミ色の触手――二種類の宇宙生物に取り込まれ、今や両者の覇権争いの舞台となってしまった我らが花園の校舎が――発光しています。それどころか、赤く変色し、膨れあがっています!
「ば、爆発する――!?」
友梨亜様が叫んだのと同時に――
「だっ……ダメです!」
わたしはとっさに、わたしの中にあるホンダさんの核をぐっとつかむと、そこに持ちやすい把っ手を作って、わたしの意識の制御下に置きました。
……何を言っているのかわからなかったと思いますが、自分でもよくわからないのです。そうとしか言い表せない感覚なのです。先ほど〈
こんなことばかりうまくなっても、日常生活ではかけらも役に立たないのが悲しいところなのですが……。
『な、何をする! あと少しで奴を完全に葬り去れたものを!』
「何をする、ではありません! このままでは花園がめちゃくちゃになってしまいます!」
『だ、だが、目の前にぶよぶよとした褐色のゲルが――!』
「あれがホンダさんの宿敵であることは存じておりますが、ここは引いてくださいませ!」
『……くっ! しかたあるまい……!』
ホンダさんが納得したところで、わたしは両腕をそれぞれ数本の触手と化し、その触手をめちゃくちゃに動かして、ステージ奥のぶよぶよとしたゲルに叩きつけます。もちろん、礼さまとエリス様を閉じ込めている例のゲルです。
「オ……オオオオ――ッ!」
わたしの口からは、知らず知らずのうちにはしたない咆哮が零れていました。
しかし、その甲斐あって、ぶよぶよとした褐色のゲルを剥がすことができました。
わたしはその奥に捕らわれていた礼さまとエリス様を触手腕でつかみ、ステージから飛び退きます。
その間、マイク・マクドナルドは何の動きも見せませんでした。
いえ――
『ァガッ……グォ……、ゴ……ヒャ……ッ』
「ち、ちょっと、どういたしましたの!? マイク――マイク!」
友梨亜様の下半身を覆うドレス型のゲルが、激しく痙攣しています!
マイク・マクドナルドの声も不明瞭で苦しげです。
『ウヒャヒャ……ッ、ウヒャヒャヒャヒャヒャァァァァ――ッ! サイッコー! キブン、サイッッコーダゼェェェ……ッ! オレッチハ……ドコマデモ……ドコマデデモ……イッケルゥゥゥゥ――ッ!』
「マイクッ! マイク・マクドナルドォ――ッ!」
明らかに様子のおかしいマイク・マクドナルドに、友梨亜様がうろたえた悲鳴を上げられます!
「友梨亜様っ!」
『今は無理だ! 引くと決めたのは君だろう!』
「くっ……!」
たしかに、礼さまとエリス様を抱えたまま戦うことはできません!
『今のうちだ!』
ホンダさんの制御で、わたしの背中から大量の触手が噴き出しました。
触手はゲルで補強された講堂の壁を突き破り、外への脱出口を作ります。
でも、ああ……っ、花園自慢の大講堂が――!
『気にしている場合か! 早くこの場を離脱しろッ!』
そうでした。
わたしは腰の後ろに触手翼を生やすと、礼さまとエリス様を触手腕でつかんだまま、壁に開いた穴から戸外へと飛び出します。
大講堂を飛び去り、上空に出てから、わたしは後ろを振り返ります。
わたしの愛する花園の瀟洒な校舎は、今やぬらぬらと不気味な光沢を放つ褐色のゲルに覆い尽くされてしまっています。
その光景は、大講堂に突入する前と変わりません。
いえ――
「……まさか……」
校舎を覆うぶよぶよとした褐色のゲルの動きが違います。
膨張し、分裂し、増殖し――セント・フローリア女学園の敷地を徐々に埋め尽くそうとしているかのようなのです!
そればかりか――
「なんですか……あれは」
『ふむ……あれは、ぶよぶよとした褐色のゲルの通常形態――本来ならば宇宙空間でしか展開しないはずの、
敷地内に広がりつつあるゲルは、同時に大講堂へと環流し――そこからさらに、宙を目指して上昇していくのです!
上昇したゲルは大講堂の上空百メートルほどの地点で塊を作ろうとしています。やはり重力のない宇宙とは勝手がちがうのか、ぽろぽろと零れ落ちていくゲルも多いのですが、塊はゆっくりと、しかし着実にその大きさを増していくように見受けられます。
『〈
「そんな――!」
そんな、というのは、そんな危険な技をこの花園で使ったのか、という意味だったのですが、
『ああ。奴は暴走している。今はまだ〈
「ち、ちょっとぉ――!?」
あまりの話に、声が裏返ってしまいました。
「な、なんとかできるんですよね!?」
『……うむ』
「うむ、ではありません! もう、ホンダさんが調子に乗ってあんな技を使うからこんなことに――!」
『い、いや、あれは必要な対抗措置だったのだ! ぶよぶよとした褐色のゲルを仕留めるにはああするしか――! ……いや、よそう。抗議ならば後でいくらでも聞く。今考えるべきはこの場で奴を葬り去るにはどうすればよいのか、だ』
「そんな都合のいい方法があるのですか?」
『……〈
「でも、できませんでした」
『ああ、悔しいが、奴の言っていたとおり私は『古い株』なのだ。切り札である〈
「あれの核を壊すことはできないのですか?」
『その核だが……おそらくはあの女生徒――聖華仙友梨亜の体内にあるはずだ。私の核が君の中にあるように。彼女を傷つけずに核のみを破壊する方法は……残念ながら思いつかない』
「そんな……!」
状況は想像以上に悪いようです。
わたしは必死に頭を巡らし、昨日・今日の出来事を思い返します。事故・ゲル・触手・つぐみさん・凛・四君会議・埠頭の倉庫・白百合の君とマイク・マクドナルド……どこかに有益な情報があったかもしれません。
そして――
「ホンダさん……こういうことはできますか?」
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