43.Re:コンジャンクション

 わし(桜塚猛)は地を駆ける。

 老人の身体では考えられない力強さ。

 若く精悍な冒険者の身体がもたらす力感に、わしは事態を忘れ酩酊しそうになる。


 ドラゴンの脚をかわし、立ちはだかるギガアントを魔法で吹き飛ばす。

 その間足は止めていない。

 止めれば死ぬ。

 今わしがいるのはそのような場所だ。


 ――戦場。


 戦後生まれのわしが、本物の戦場に立つ日が来ようとは。


 わしは過熱する脳を必死でなだめながら、戦況を見極める。

 わしを追おうとしたドラゴンを引きつけるミランダとアーサー。

 エルヴァとともにデーモンと戦うジュリアーノ。

 エルヴァの中には既に斃れた者もいる。


 前方で爆発が起こる。

 わしの身体に入ったロイド・クレメンスが吹き飛んでいく。

 わしは爆風をやりすごしながら回り込む。


 ナザレの視界は、爆発の余波で遮られているようだった。

 わしは地面に落ちていた日本刀を拾う。

 日本刀の柄を、本来のわしの手が握りしめていた。

 持ち主の意思を離れ、こちこちに固まった指を剥がす。

 わしは、わしの手を投げ捨て、日本刀を握る。


 そして、再び駆ける。


 何も考えなかった。


 ナザレの背中に日本刀を振り下ろす。


 日本刀は、ナザレの背中を袈裟懸けに裂いた。


 ナザレが悲鳴を上げた。


 わしはオスティルに向かって叫んだ。



「――わしらのコンジャンクションを元に戻せ!」




 †


「――わしらのコンジャンクションを元に戻せ!」


 桜塚のじいさんの声が、かすかに聞こえた。


 次の瞬間、俺は悲鳴を上げるナザレの背後に立っていた。

 日本刀を手にし――元のロイド・クレメンスの身体に入って。


 状況を理解する前に身体が動いた。

 外なる宇宙の力を宿す日本刀を、すくい上げるように切り返す。

 ミランダに叩き込まれた基本の型だ。


「ぐおああああああっ!」


 再び斬られたナザレが悲鳴を上げる。


 ナザレの前に倒れていた老人が、ワンドを掲げた。


「――原子すらも崩壊する極限のいかづち――プラズマブラスト!」

「があああああっ!?」


 同じく外なる宇宙の力を宿すワンドによって増幅された魔法が、ナザレを激しく打ち据える。


 魔法を放った老人――元の身体に戻った桜塚猛は、肘から先のなくなった右腕を抱えながら叫ぶ。


「いまだ、オスティル!」

「くっ……あああああっ!」


 神殺しの剣で切り刻まれ、満身創痍だったオスティルが、プラズマに灼かれるナザレに抱きつく。

 直後、ナザレがずっと放っていた異様なプレッシャーが掻き消えた。

 オスティルが叫ぶ。


「ロイド……とどめを!」

「おおおおおおおっ!」


 日本刀を振り下ろす。

 ナザレと一瞬目が合った。

 ナザレの目は見開かれ、そこには恐怖が宿っていた。


 その恐怖ごと――俺はナザレの身体を縦一文字に斬り裂いた。

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