ヤンデレ妹を持つ学校生活
ふわとろパンケーキ
1章
第0.5話 妹と幼馴染
『明日くるの?』
「はい。中学も3年。部活も終わったので、やる事がありませんから」
私は本田凛花(ほんだりんか)。
電話の相手は、従兄で兄がわりの本田凛夜(ほんだりんや)さん。
『急だね』
「迷惑でしょうか?来年は兄さんと住むので、お掃除でも、と考えたのですが」
私は来年、兄さんの家に近い高校を受験する。
合格すれば兄さんの家に住む事が既に決まっているのだ。
兄さんの家は親が不在にしている事が多いので、
住むとなると、実質二人きりの共同生活になる。
『掃除か、そうだな。わかったよ』
掃除をしたいというのは嘘。
兄さんは綺麗好きなので、部屋を汚さないのは知っている。
ただ兄さんに会いたい。
兄さんの部活の日程も把握しているので、明日何も予定がないのは知っている。
「では、お昼頃に伺います。好きなお料理たくさん作るので楽しみにしていたければ幸いです」
『うん、それは楽しみだな』
以前、お昼を作りに行った時、作りすぎて兄さんに注意された事がある。
嫌われたくないので謝ったが、
食べきれないなら残せば良いし、あればあるだけ良いのに、なぜ怒るのか疑問に思っていた。
だけど今なら兄さんの言う事がわかる。
料理というのは、その人の一回に食べられる量が決まってる中で、お腹を満たすまでに、どれだけ満足させられるかなのだ。
多すぎれば残さず食べようとして、不満足に繋がりかねないし、残してしまうと人によっては気分を害す事もあるだろう。
私は物心ついた時から、競いで負けた事は、ほぼ無かった。
初めてそれを自覚したのは小学校一年生のマラソン大会。
軽い運動しかしていないのに、学年で1位。
親の影響で運動のクラブに入り、すぐ県で優勝して全国大会にでて、塾で受けた全国模試では一桁の順位を基本キープし続けている。
ただ私は、人に何を言ったら相手がどう感じるのか、どういう行動が、相手にどういう印象を与えるのかという、感受性や社交性、共感性のような物が抜けていると感じる事がしばしばある。
小学生の時。
私がいつも話す兄さんの話を聞いていた同級生の男子が、「従兄なのに何故『兄さん』と呼ぶのか」と私を小馬鹿にしてきた。
私自身が小馬鹿にされるのは無視すればそれで良いが、その同級生は「お前の従兄弟はシスコンのヘンタイ」と兄さんの中傷した事に、私は心底腹立たしくて、その男子の顔面を殴り飛ばし、コンパスの針で刺そうとしたが、先生に止められてしまった。
その事件は大問題になり、かなり面倒だったのを今でも覚えている。
私は小学校から私立だったため、同級生はそこそこ裕福な家庭が多く、一歩間違えれば退学、それ所か裁判沙汰になっていたかもしれないとの事。
この事件の際、周りの人間の表情で深刻な状況なんだと理解したが、私自身、同級生に兄さんを馬鹿にされたて腹立たしいという感情以外は特に無かった。
貴方ごときが兄さんを馬鹿にして良いはずがないし、きっとお前如きいなくなっても誰も気にしない。
だって私がそう思うのだから。
世の中の命には優劣が確実にある。
法律をかじっている親戚から習ったが、人を殺めてしまった人へ、遺族が求める損害賠償額は、殺められた人が今後どのくらいの収入を得られるかによって変わるとの事だ。
その時点で命には価値の優劣があると言う事の証明だ。
資本主義社会のこの世の中で、命の金銭の額が変わるんだから。
何より「人を殺してはいけない」とは言うが、合法的な殺人である死刑があるではないか。
それは悪ではないのか。
悪ではないのだとしたら、何故人を殺す事はダメな事なのか。
死刑を宣告される人間は大体が人を殺している者だから許される、という事のなのか。
ただそれだと、人を殺した人間は、「人を殺してはいけない」の「人」という枠組みから外れるという事なのか。
それがまかり通るなら、やはり人の価値は平等ではない。
私にとって、同級生の男子の価値など0に等しいし、今後も同じ発言をし続けるのであれば、私にとってマイナスでしかないから、殺した方が全体の風通しもよくなるのに。
・・・・
結論、私は人を傷つけたりしても、他人よりは何も感じないタイプの人間なのだと思う。
小説などで主人公が登場人物に対する配慮や共感の心理描写が描かれている部分を読むと、私にはそういう発想がないので、たびたび驚かされる。
特段、その主人公が驚くべき配慮をする人間としては描かれていない所から、この考え方が一般的なのだとするなら、私にはやはり共感能力が他人と比較して欠如していると言わざるを終えないのだ。
虫や動物なら「危険が及そうだから」という理由で、まだ害されてもいなくても殺すが、
これが人間相手だと勝手が変わり、嫌悪するという感覚が、私からするとよくわからない。
社会的に、人を殺すと、その人が本来するはずだった経済行動や、残すはずだった子孫が残せないからダメという事にしている、というならわかるが。
みんなが恐る理由としては、他人を傷つける人を見ると、自分も傷つけられると思うから危険視するのだろうか。
きっとそういう事なんだろう。
そういうルールだと学んだので、しないようにするだけ。
大まかなルールは理解しているが、「そういう感覚」が無い事で発生する問題で困る事もあった。
その時はいつも兄さんに質問している。
兄さんはとても優しくて、私が知りたい答えをいつも教えてくれた。
私は兄さんとの時間が大好きで、人生で過ごす時間は常にこの時間でありたい。
初めて兄さんと出会った時の事を、今でもはっきり覚えている。
2歳の時、正月の親戚の集まりで、初めて会って話した。
その時間は楽しくて、それまでの人生の時間は何だったのだと、私の人生の意味を見つけられた気がして、初めて感動した。
家に帰る時間となった際に、兄さんと離れるのが嫌で、何とか離れないで済む方法はないか考えても、思い付かず、初めて私が泣いてグズった。
兄さんは当時の事を覚えていないようで、少し悲しい。勉強も運動も辛くはないが、私にとっては自分の人生を生きるためのスキルの一つなだけで、退屈としか感じない。
兄さんと一緒にいる時は違う。
心が温かくなって、楽しくて、私も優しくなれた気がして、兄さんと一緒にいるために私は生きているんだなと思う。
きっと兄さんも同じように考えている。
その証拠に私が中学受験を受ける時、私が合格したら結婚してくれると約束してくれた。
そのあと見事合格。
私と兄さんは婚約しているのだ。
♢
少し早めに家を出てしまった。
14歳になっても兄さんに会う前はソワソワしてしまう。
昨日も会えるのが楽しみで、中々寝付けず若干寝不足。
でもそんな事はどうでも良い。
早く起きてお風呂に入って、お化粧もして、服もなるべく前回会った時と被らない物で、かつ兄さんが好きそうな服装をチョイスする。
会うのは2週間ぶり。
兄さんは部活をやっているので休日必ず会える訳ではない。
寂しいが兄さんの人生があってこその兄さんなので、邪魔はしたくはないというのが私の考え。
それに部活の応援を行くという口実で、兄さんに会える時もあるので私の中でも割り切る事ができる。
兄さんの事を考えていると、あっという間に家の前に着いた。
この瞬間は楽しみなのと若干の緊張でドキドキする。
兄さん以外に心躍る事はない。
来年は私もここに住める。
そうなったら私も合鍵を貰えるのだ。
本当に夫婦みたいで素敵だな。
そんな妄想をしながらチャイムを鳴らした。
「凛花、早かったね」
いつもの兄さん。
起きたばかりなのだろうか少し寝癖がついている。
「兄さんに早く会いたくて来てしまいました。ご迷惑でしたか?」
「大丈夫だよ、入って」
笑顔で迎え入れてくれる。
私は兄さんの匂いが好きで、兄さんの匂いがする家の中も大好きだ。
柔軟剤の匂いだけじゃない兄さんの匂いを感じられる。
・・・・・・・?
今日は別の匂いが混じっている。
お客さんだろうか。
「兄さん、お客様がいらっしゃるっているのですか?」
「はは、何でわかったの?靴も靴箱に入れていたのに」
匂いでわかります。
あえて口には出さないが。
「紹介するよ、僕の幼馴染の茜」
幼馴染?
「貴方が凛夜の従妹の凛花ちゃん?初めまして、斉藤茜(さいとうあかね)です」
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
理解ができない。
この女は何なんだとか、なぜ私が来る日に他の女がこの家にいるのか、疑問は山ほど浮かんだが、冷静に考えられる余裕はない。
さきほどまで温かった心が急激に冷たくなり、めまいがして視界が歪み、普段退屈と兄さんへの想いで溢れている心が、強い悲しみと怒りでいっぱいになるのを感じる。
兄さん。
誰ですか、その女。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます