第35話 伝家の宝刀を抜いてやるぜ!

「こうなったらヤケクソだ! 伝家の宝刀を抜いてやるぜ!」


 もみくちゃにされながらもなんとか踏ん張り、背負っていた刀を抜く。


「うおお! ちっちぇえええ!」


 柄は普通なのに刀身はテレビのリモコン程度だ。もちろん強度もなく、鬼の鎧にカキンと跳ね返される。


 見つめ合う俺と鎧鬼。


 愛想笑いを浮かべてみる俺とチッチッチと指を左右に振る鎧鬼。


 会釈して立ち去ろうとする俺とタキシードの襟を掴む鎧鬼。


 あちゃーという感じで見ている白河さんと水島。


「助けてえええ!」


 手を伸ばして叫んだ俺に、二人が苦笑いを浮かべる。


「それなりに期待はしてたんだけど、弱すぎじゃん」


「頼りの刀があれではね。鬼ヶ島で見た時よりも小さくなっている気がするわ」


「確か、あれって桃太郎のアレに比例するとかって設定じゃなかったっけ?」


「そうよ! その通りだわ! つまり瀬能君が欲情すればするほど逞しく反り返るんだわ!」


「だったらやることは一つじゃん!」


 意外とおっぱいにボリュームのある水島が前傾姿勢で谷間を作る。


 一方でスレンダーな白河さんが、妖艶に肢体をくねらせる。太腿から腰を摩るような手つきが超エロイ。


「あ! 刀がちょっと大きくなった!」


「鬼に囲まれている状況でも欲情できるなんて、さすがエロウ君ね!」


 瀬能です。否定できそうもないけど。だって男なら見るよね? 当たり前だよね?


「ここで勝負をかけるわよ、楓さん」


 眼鏡を外した白河さんが、四つん這いにさせた水島を椅子代わりにM字開脚をした。


 パンパンと水島のヒップを太鼓代わりに、ふっくらした唇で小指をちゅぱちゅぱする。


「皆が見てるのにお仕置きしないでえええ」


 M性に目覚めた時のことを思い出しているのか、さかんに大きな尻をうねらせる水島。


 興が乗ってきたらしい白河さんが、唾液を纏わせた指を胸元から臍へと這わせていく。


 高まる期待に俺だけじゃなく、鎧鬼の軍団まで注目している。どこの世界もスケベばかりだ。


「私のすべてが見たいのね。それは構わないけど……満足させてもらえるのかしら」


 妖艶な微笑みで鎧鬼を挑発する白河さん。確かあの人って処女だったよね?


「ウチも我慢できない。ああん、もっといぢめてえええ」


 本性を爆発させた水島が叫び、前のめりになる鎧鬼たち……と俺。


 そして白河さんの指が禁断のデルタゾーンに伸びていき――。


「おい、発情猿に変態犬。二匹揃って、人の男に色目使ってんじゃねえぞ」


 ――鬼より怖い九鬼璃菜さんが登場した。


「ち、違っ! こ、これは桃太郎にやる気を出させるためなんだって!」


「そ、そうなのよ、璃菜さん。瀬能君の刀は欲情度で威力が変化する設定だったでしょ? 璃菜さんは忙しそうだったから、私たちが代わりに――」


「ああ?」


「「何でもありません」」


 素早く並んだ二人が深々と頭を下げた。


 先ほどまでの熱狂はどこへやら。現場はとてもシンとしている。


「大体、亮太も亮太だろ! これじゃ女房が仕事してる時に、博打してる旦那みたいな……にょ、女房……」


 自分で言っておきながら、急に照れだす璃菜。


 もじもじする彼女を前に鎧鬼たちは顔を見合わせ、自らの役目を思い出したかのように襲い掛かってきた。


 ――俺に!


「ぐおお! やっぱ刀が弱すぎるううう!」


「おい、亮太」


 溶岩が押し寄せてきているかのごとく、背中がチリチリ熱い。やだ。怖い。見たくない。


「それはもっと連中とイチャイチャしたかったってことか?」


 女担任との一件があって以来、泣いて拗ねたりする機会は減ったものの、嫉妬心をダイレクトにぶつけてくるようになった恋人の赤毛が逆巻く。


「ま、まさか! 俺は璃菜一筋だし! そ、そうだ! 璃菜ならあいつら以上に俺の刀を強化できるんじゃないか!?」


「な!? ア、アタシにあんな真似をしろってのか!?」


 怒りがそのまま羞恥に転化したみたいに、璃菜の頬色が赤色から桃色になる。

 シュンとしていたエロ猿とマゾ犬が、ここぞとばかりに反撃に転じる。


「瀬能君の刀を極限まで勃――もとい、強化できるのは璃菜さんだけよ!」


「ウチらが手伝うのが駄目なら、自分でやるしかないじゃん!」


 うぐぐと呻く璃菜を、固唾をのんで見守る俺と鎧鬼一同。


 やがて璃菜は真っ赤な顔を逸らしたまま、長いドレスの裾を掴んだ。


「……亮太のため、だもんな。でも……恥ずかしいな。二人きりでなら、いくらでも見せてやれるのに」


 切なげに、それでいて慕情を称えた流し目に、俺の理性がマッハでブチ切れる。


「璃菜あああ!」


「なんか瀬能が燃えてんだけど!」


「りょ、亮太!?」


 突然の出来事に戸惑う女性陣に、俺は断固たる決意と覚悟で告げる。


「璃菜は俺の女だ! 他の野郎どもに綺麗な柔肌を見せてたまるかあああ!」


「先ほどの璃菜さんの台詞で、瀬能君の嫉妬心に火が付いたんだわ!」


「つまりどういうことなわけ!?」


 半ばパニクって尋ねる水島に、白河さんはウインクして答える。


「似たもの夫婦ってことよ」


「俺の璃菜で欲情しようとした不届き者はどいつだあああ!」


 この邪魔者どもを全滅させて、二人きりになった暁には、俺は……俺はあああ!


「ちょ!? 瀬能の刀がありえないくらいデカくなってんだけど!」


「刀どころか戦車の砲身くらいはあるわね……奥まで入るものなのかしら……?」


「なんか言ったか? 発情猿?」


「ええ。瀬能君と初めての夜を過ごしたら、後で感想を教えてね」


「バ、バカ! そ、そういうのは人に言うことじゃないだろ……は、恥ずかしい……」


 普段は強気なのに、エッチな話で恥じらう恋人。ギャップの大きさは魅力となり、俺にピンクな妄想を抱かせ――。


「フルバアアアストオオオ!」


 真っ赤に染まった刀をスカイツリーのごとく聳え立たせた。

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