第14話 ハイレベルな男の仕事とローレベルな男の仕事

有馬の仕事は、まさに順調そのものだ。日中はエネルギーが溢れているため、特に意識しなくてもすべてが上手くいく。朝のルーチンで整えた心と体のおかげで、彼の一日は絶好調でスタートする。次々とやってくる仕事に対して、有馬はただ自然に取り組んでいくだけで、徐々にエンジンがかかってくるのを感じる。


思考を妨げるような社内の掲示板やネットの情報には一切目を向けず、ただ目の前のタスクに集中している。「もっとこいよ。まだまだ足んねーよ」と、次の挑戦を求めてやまない気持ちが彼を突き動かす。


ランチタイムになると、有馬は自宅で栄養バランスを考えた食事をとる。朝のうちに準備しておいたもので、野菜、タンパク質、炭水化物がしっかりと整ったメニュー。これもまた、彼の一日の成果の一つだ。食後は短い昼寝をとり、脳と体をリセットする。また、時間を無駄にしないために、週末に必要な買い物やガソリンの補充などの家事も昼休憩のうちに片付けておく。


午後の仕事はさらにスムーズに進む。有馬は定時に上がることを目標に、段取りよくタスクをこなしていく。ここで初めて社内の掲示板やメールをチェックし、重要な情報がないかを確認する。少しマルチタスクをこなすことで、多少の疲れを感じることもあるが、エネルギーを無理に振り絞ることはしない。できる範囲で行い、急を要しないものは閑散期に片づける予定だ。彼は、仕事には終わりがないことを理解している。時間を味方につけ、必要な時まで待つことが成功の秘訣だと知っているからだ。



一方、田中の仕事は何をしてもうまくいかない。そもそも、彼の頭の中にあるのはどうサボろうかということばかりだ。簡単なことほど早めに片付けないと後がしんどくなると気づいてはいるが、その現実から目を逸らし続ける。今さらどうしようもないという諦めが、彼をますます行動から遠ざけている。上司には怒られ、部下には見下される毎日だ。ときどき、自分よりもさらに見下せそうな部下を見つけては、その一瞬の優越感に浸る。


「あいつ童貞やって、びっくりしたわ」と、嘲笑まじりの言葉を口にする。だが、実際に周囲が驚いているのは、田中自身の無能ぶりなのだということに気づいていない。「社長の退職金1億」「なんとかかんとか助成金」「社員旅行でUSJってどんだけ大きい会社なんやろって」と、無意味な雑談ばかり繰り返す。その一方で、「仕事でUSJって羨ましくないやい」「でもさ、投資って最大のギャンブルなわけやろ?」と、社会の仕組みを全く理解していない発言をする。


ランチタイムになれば、田中の食事はいつも決まってカップ麺、ポテトチップス、アイスクリームだ。ここしばらくずっとそれで済ませている。栄養も考えず、ただの空腹を満たすための食事。髪は禿げ上がり、腹は出まくっている。食後は血糖値スパイクで、午後の仕事には使い物にならない。「みんなそのうち禿げてくるで」と自分を慰めるように友人に言うが、実際に容姿が衰えていくのは自分だけだ。「市販のノンシリコンシャンプーはあかんらしいで」と知識をひけらかすものの、誰もその話に興味を示さない。


午後の仕事も同じく無為な時間が流れる。意味もなく倉庫にこもって携帯ゲーム機で時間を潰し、友達に送るラインもどこか空虚で痛々しい。何か意味のあることに1分でも時間を使えば、少しはマシな日々になるのだろうに、それすらできない。彼は何の進歩もないまま、「男は仕事してなんぼやで」と無意味な言葉を繰り返すだけ。


結局、二人の男の間には、大きな隔たりがある。


ハイレベルな男は、充実した一日を送り、さらに上を目指すために計画的に動いている。ローレベルな男は、無為な日々に埋もれ、何も成し遂げないまま時間を浪費している。仕事に対する意識と姿勢の違いが、両者の人生に大きな差を生んでいる。

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