第5話 つまり、膝枕は最高ってこと




 有名ダンジョン配信者――白野しろの眞白ましろと、その人との出会いは本当に奇妙であった。

 急に暴走し始めたドローン型のカメラを追いかけた先に彼はいた。


「〈ショックブラスト〉」


 そう言って魔石を吹き飛ばしていたのだ。

 ドロップ品と違って魔石は確定でドロップするもの。

 その上、当たり外れが激しく、時にはほぼ0円でしか売れないこともあるドロップ品と違って魔石はどんなものであっても基本的にそこそこの値段で売れる。


 なぜなら、魔石の持つエネルギーが貴重であるからだ。

 だから、政府は積極的に探索者の持つ魔石を買い取る。


 私はてっきり、カバンに入りきらない魔石を処分しているのかと思ったが、彼のカバンはまだ、入りそうなのである。

 私は全く意味がわからなかった。


“え、こいつやばくないか?”

“とんでもない奴が配信に映ってるんだけど”

“ま、魔石がぁぁぁ!!! お金の元がぁぁぁ!!!”

“こいつ、人間じゃねえ……魔石を粉々にするなんて”

“こいつ、配信者じゃね?”


 あまりの光景にコメント欄もざわつき始める。

 私は急いでカメラを回収しようとするが、うまく飛んでいるカメラを掴めないでいた。


「〈ショックブラスト〉」


 すると、次はドロップ品を処分し始めたのだ。

 その中には悪くない値段で売れるレアドロップ品も含まれていた。

 が、それらも他のドロップ品と変わらず処分されていく。


 私はようやくそこで、これは映しちゃダメな人間だと判断し、急いでカメラを回収しようとした時だった。


「取ったどぉぉぉぉ!!」


 その人が急に音速で飛んできて、カメラを掴みながら壁に衝突したのだ。

 そして、気を失った。


 下層にも潜ったことのある私であっても人が音速で飛んでくるという経験は初めてであった。



 ――――――――



「こ、これ、大丈夫ですか?」


 私は膝上で寝ている彼を見ながらそう呟く。

 眠り始めてから3分以上経っているが、目を覚ます気配がない。


 もしかして死んでいるのでは……?


“なんで膝枕やねん”

“そこをどけ、狂人男”

“今だけ俺と変わってくれ”

“こいつだけは許せない”


 同接はなぜか少し増え、2万人になっていた。

 ただ、よくわからないコメントが増えていた。


「ゆ、許せない? でも、私、男の人はこうしてあげると喜ぶとお母様に聞きましたよ」


 もしかして、膝枕というのはあまり、世の中一般的にはあまりしないものなのでしょうか?

 私が不安になっていると――


「――いや、膝枕やんけぇぇぇぇぇ!!!」


 そう叫びながら彼が起きた。

 ひ、膝枕というのはそんなにおかしいものなんでしょうか。


「や、やっぱり膝枕っておかしいんですか? ごめんなさい、今すぐ止めます!」


 私は少し恥ずかしくなり、赤面する。


 それから、私はカメラをオフにし、マイクをミュートにする。

 マナーとして、流石にこれ以上彼のプライバシーを侵害するわけにはいかない。


 そこから私は彼の質問に答えたり、謝ったりしているとなぜかお詫びとして膝枕をすることになってしまった。

 普通はあまり、やらないものなのではなかったのでしょうか?


 私はついでに彼の頭を撫でてみる。


 すると、とても幸せそうな顔をするのだ。

 まるで犬みたいです。


 そして、彼が満足して立ち上がった時、私は気づいてしまった。

 もう一つのカメラを止めていなかったことを。


 焦って私はカメラの録画を止め、コメント欄を見ると……


“こいつを許すな”

“眞白ちゃんからなでなでされて……うらやまけしからん!”

“俺たちの眞白ちゃんがぁぁぁ”

“特定したわ、こいつ柊幸人って名前で配信者やってるぜ”

“最低男が”


 ものすごく荒れており、私は勢いよく彼に土下座した。




 ――――――――



【スレッド:眞白ちゃんがナデナデしてたあの狂人男について】


 1 名無しのファン

 マジでふざけんな。俺たちの眞白ちゃんに2回も膝枕させた上にナデナデまでさせやがって


 2 名無しの豚狩り

 何が俺たちの、だよ。これだから豚は


 3 名無しのファン

 >2 黙れ、どっちにしても俺はあのクソ男が嫌いだ


 4 名無しのファン2

 まあ、『俺たちの』はちょっと過激だけど俺もあの男に関しては好かんわ


 5 名無しの豚狩り

 なんだ、彼氏か、そいつ。ざまぁ


 6 名無しのファン

 >5 ざけんな。あんな狂人、彼氏なわけないだろ。眞白ちゃんだって引いてたわ


 7 名無しの豚狩り

 >6 kwsk


 8 名無しのファン

 魔石とドロップ品を持ち帰って売らずにスキルを使って粉々に砕いてた。


 9 名無しのファン2

 >8 ただのヤバい奴やんけ


 10 名無しの人

 これ見ろ

 URL


 11 名無しのファン

 >10 なにこれ、誰かのチャンネル?


 12 名無しの人

 柊幸人っていう眞白ちゃんに膝枕されてた奴のチャンネル


 13 名無しのファン

 >12 マジで?! こいつ配信者だったのかよ


 14 名無しの探索者

 一部だと有名だぜ、こいつ

 高笑いしながら何体ものモンスターを殴り殺してるからな


 15 名無しのファン

 >14 配信見てきたけどガチじゃねえか。マジで狂ってやがる


 16 名無しの探索者

 >15 せやろ、俺は眞白ちゃんがあの時、押し倒されなかっただけ運良かったと思ってる


 17 名無しのファン2

 ひえっ……想像するだけで吐き気してくる


 18 名無しのファン

 つまり、こいつは魔石とかドロップ品のためじゃなく、ただただ快楽のためにモンスターぶっ殺してる狂人バーサーカーってこと?


 19 名無しの探索者

 >18 そうでもなきゃ、魔石を粉々にしないだろ


 20 名無しのファン

 そう思うと眞白ちゃんが頭ナデナデするだけで済んだのは僥倖だったな


 21 名無しのファン2

 まあ、殆どのところが音声無しで映像しかなかったから何の会話があったかなんてわからないけど


 22 名無しのファン3

 >21 あれって確か眞白ちゃんのカメラの切り忘れだよな。


 23 名無しのファン

 でもその切り忘れのお陰で俺たちは眞白ちゃんが汚されてないことが知れたんだから逆に良かったわ


 24 名無しのファン2

 でもどういう経緯で膝枕ナデナデすることになったんだろ


 25 名無しのファン

 最初に膝枕した時に柊が膝枕にハマったとかww


 26 名無しのファン2

 >25 その結果、眞白ちゃんが膝枕をチラつかせてなんとか柊に許してもらったというわけか


 27 名無しの探索者

 >26 なんだそれ、面白すぎる。完全にあの狂人を懐柔してるじゃねえか


 28 名無しのファン3

 速報:眞白ちゃんの膝枕は狂人をも魅了する


 29 名無しのファン

 >28 草


 30 名無しの人

 お前ら、柊についてボコスカ言ってるけど配信はいいぞ


 31 名無しのファン

 >30 は?


 32 名無しの人

 お前ら、推しのダンジョン配信者がモンスターに怪我させられた経験あるか?

 それか友人か家族がモンスターに殺されたことがあるか?


 俺は両方あるぜ。


 そんな俺にとって柊のモンスターをぐちゃぐちゃになるまでボコボコにしていく配信はマジで良い恨み晴らしになるんだよ


 33 名無しの探索者

 >32 すげえなお前。壮絶な過去持ってんじゃねえか


 34 名無しのファン

 でも、俺も推しがモンスターに殺されたらモンスターにクッソ恨み持ちそう


 35 名無しの狂人ファン

 柊の配信はいいぞ

 モンスターに恨みなんて無くとも爽快感がハンパねえぜ


 36 名無しのファン2

 >32 >35 別に柊が殺してるのって精々、C級のモンスターじゃねえか。

 もっと強い探索者なんて山ほどおるが?


 37 名無しの人

 >36 柊の配信を一回見てくれ

 俺はあんなに速く動きながらモンスターを殴ってぐちゃぐちゃにする探索者を他に知らない


 38 名無しのファン3

 >37 Sランク探索者の神山かみやま光星こうせいはどうだ? あいつは光の速さで動きながら、通り過ぎたモンスターをバッタバッタ殺していくから柊の上位互換だろ


 39 名無しの人

 >38 ちと違うな

 光星はスキルで一瞬で直線を移動しながら居合でモンスターを斬り殺すだろ?

 違うんだよ、あんな苦しみのない死に方じゃなくてぐちゃぐちゃになるのが良いんだよ

 それに、光星は速すぎてもはや目で追えん

 気づいたら敵が死んでるって感じでストレス発散には向かないんだよな


 40 名無しのファン

 まあ、配信が良かろうと柊がガチのやべえ奴ってことは今回で判明したな


 41 名無しの人

 流石に魔石を粉々にしてるのは引いたわ

 ガチの快楽のためにモンスターを殺し回ってるんだな……


 42 名無しのファン2

 つまり、そんな柊をも懐柔する眞白ちゃんの膝枕は最高ってこと


 43 名無しのファン

 >42 そういうことだな



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