第3話 ちょっとわからせ……話し合いたいんだけど
俺は一休みした後、もう一仕事するために立ち上がった。
「んじゃあ、やってくか」
俺はマジックバックに入れた魔石を一箇所に集め――
「〈ショックブラスト〉」
スキルで全部まとめて砕いた。
ドロップ品も同じように処分する。
ドロップ品や魔石はそのまま放置していてもダンジョンに吸い込まれていくのだが……ドロップ品や魔石を拾わないと視聴者に明らかにおかしいと思われる。
そしたら俺は金のためにモンスターを殺す狂人探索者からただ愉悦のためにモンスターを殺す凶人探索者にランクアップだ。
それは嫌だ、まだまともだと思われていたい。
「でも、魔石を砕いたら元気が出るのはなんでだろうな」
よくわからないが魔石を砕くと少し元気が出るのだ。
ストレス発散になっているからだろうか。
次に俺は拾った他のドロップ品を1箇所にまとめる。
「ええっと……これはゴブリンの角で、これはオーガの肝か……うん、ゴミだな」
ダンジョンの外に持っていけば売れるのかも知れないが生憎それは出来ないのだ。
なので、この場で使えないアイテムは全て魔石と同じように処分する。
俺は同じような手順でアイテムも処分する。
「〈ショックブラスト〉」
そうやってドロップ品を全て吹き飛ばした後であった。
後ろから視線を感じるのだ。
モンスターにしては明らかに殺気を感じない。
間違いない、これは人間だ。
俺は視線に気づいたことに気づかれないように平静を装いながら剣を取り出す。
そして、手入れをするフリをしながら剣に反射した背後の景色を確認する。
しばらく薄い茶色のレンガでできた壁が映り続けるが……
見えた。
間違いない、あれはカメラだ。カメラが一つ、曲がり角から顔を出してる。
不味い不味い不味いぞ。
もし、俺がドロップ品を吹っ飛ばしてる姿が撮られていたとしたら……不味い。
俺がドロップ品すらも必要とせず、ただ快楽のためだけにモンスターを殺す本当にヤバい人だという誤解が広まる。
それだけは勘弁願いたい。
こっちだって、成人したらまともなダンジョン配信者としてやっていこうと思っているのだ。
であるのならば撮影者には丁重にお願いしないとな。
そして、二度とこんなことがないように少しお話ししようじゃないか。
俺は全力で振り向き、後ろの空中に向かって手をかざす。
「〈ショックブラスト〉ぉぉぉぉぉ!!!」
ショックブラストは言ってしまえば超高圧縮されただけの風の塊だ。
それを後ろに向かって撃つことで自分の体を前方に大きく飛ばすことができる。
ただ、一つ欠点がある。
それは止まれないということだ。
だが、そんな欠点、緊急事態である今は知らん。
音速に近い速さで0.1秒も経たぬ間に俺はカメラの前に移動する。
そして……
「取ったどぉぉぉぉ!!」
無人島番組の人もびっくりの速さで獲物を取り、すぐさまカメラの電源を切るが
――ドゴォォン!!!
俺は壁と勢いよくキスをした。
やばい、かろうじてギリギリでショックブラストを壁に向かって撃ったから多少速度が落ちたもののあまりの衝撃に意識が……。
「うええええええ?!?! な、何が起きて……」
俺は最後にその言葉を聞いて意識を失った。
――――――――
「こ、これ……じょうぶ……ですか?」
俺、死んだのか。
なんだか、上から女性の声が聞こえてくる。
「……枕ですか?……ですし、私のせい…も……ませんから」
徐々に意識が覚醒してきた。
「ゆ、許せない? でも、私、男の人はこうしてあげると喜ぶとお母様に聞きましたよ」
意識に伴って五感も戻ってきた。
そして気づいたことがある。
俺は目を開ける。
「あ、起きたんですね!? 良かったです!」
「――いや、膝枕やんけぇぇぇぇぇ!!!」
見上げると黒髪ロング美少女が俺の顔を覗いていた。
まさかの俺氏、齢16にして膝枕童貞を卒業してしまう。
「や、やっぱり膝枕っておかしいんですか? ごめんなさい、今すぐ止めます!」
「え、いや、俺は嬉しいんだけど」
彼女は赤面しながら俺の頭を地面に置き、正座のまま、するすると後ろへ下がった。
誰だよ、この子に膝枕がおかしいとか言った奴。
せっかく、初めて膝枕してもらえたのに……。
って、そうじゃなくて!!!
思い出した、この子は俺の秘密をカメラで撮ったのだ。
「あの、君、俺のことカメラで撮ったよね? そのことについてちょっとわからせ……話し合いたいんだけど」
「ちょっと本音出てませんか?!」
やべっ。
「それはそうとして、あの録画、消してもらえないか? あれが外に漏れると俺としては色々と不味いんだよ」
「そ、それはええっと……」
「もしできないっていうのなら、こっちもちょっと強行手段に出ざるを得ないんだけど……」
最悪の場合、殴って昏倒させてその間にカメラをぶっ壊させてもらおう。
ダンジョン法で盗撮は規制されていないが……仕方がない。俺の未来がかかっているのだ。
「どうかな?」
俺がそう聞くと
「すみません!!! 本当にすみません!……」
彼女は正座の姿勢から勢いよく頭を下げて土下座し
「もう、配信に乗っちゃいました」
ハイシン?
俺はその瞬間だけ日本語を理解できなかった。
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