狂人バーサーカー系ダンジョン配信者だったのですが、美少女ダンジョン配信者を助けて丁寧な対応したら実はまともなことがバレました

わいん。

第1話 あはははっ! ◯ねぇぇぇ!!!




「ふははっ!!! 1万円が一匹、二匹、三匹!……堪んねえ」


 男はそんな恥ずかしい台詞を吐き捨てながら周りに群がるオーガたちの顔面をブン殴る。

 ぶん殴られたオーガは顔面がぐちゃぐちゃに歪み、壁まで吹っ飛び……原型はもうなくなっていた。


「あはははっ! 死ねぇぇぇ!!!」


 続々と現れてくるオークやゴブリン、さらにはトロールやハーピーといった上位種すらも男は顔面を殴り、蹴り、時には至近距離で魔法をぶっ放して原型がなくなるほどモンスターたちを痛めつけていく。


 そして3分後、あたりは緑や赤などモンスターたちの血で染まっていた。


「さあ……魔石回収といきますか」


 いつの間にかにモンスターの死骸は消えており、辺りには何百個ものの魔石が転がっている。


“やば過ぎだろ……”

“何回見ても意味わからん”

“カメラが動きを追えてねえ”

“未だにAI映像じゃない事が信じられない”

“寧ろAI映像で、あってくれ”

“こいつ、もっと有名になっていいと思えるくらいには強いんだよな”


「ふはっは!!! 魔石がこんなにっ……! 全部で100万はするかな」


 男はモンスターの返り血で全身を真っ赤に染めた状態で、舌なめずりをする。

 その姿はまさに、狂人とも言えるだろう。

 いや、狂人という言葉でも足りない。


“うん……やっぱりこいつはあんまり表に出しちゃいけない気がする”

“自分の価値観がぶっ壊れていく音がする……”

“よし、決めた。俺らでこいつは隠そう”

“せやな、なるべくこの配信、高評価しないで他の人のオススメに出ないようにするわ!”

“俺も高評価取り消してこよ”


 この配信の同接は約100人……その全員が『こいつは世に出しちゃいけない』と思い、誰も配信に高評価をつけていなかった。

 そのおかげでこの1年で同接は10人くらいしか増えていなかった。


 そう、視聴者によって男は隠されていたのだ。


“¥10000 でも、めっちゃスッキリするからスパチャするわ”

“¥5000 昔、俺に怪我させてきたオーガをボコボコにしてくれてありがとう。スッキリした”

“¥50000 キモチィィィィィ!!!”


 配信主が狂人なら視聴者も狂人であった。

 この配信にいる視聴者の大抵が昔、モンスターに怪我をさせられたり、大切な人を殺された人であった。

 そのため、モンスターを原型がなくなるほどボコボコにしていく男の配信の虜になっているのだ。


「うっし、次の狩場行くかぁ!!!」


“よっしゃぁ!!”

“もっとボコボコにしてくれっ!!!”

“なんなら死なない程度に痛みつけてやってくれ”


 投げ銭は同接100人にも関わらず、一配信で平均30万円であった。


 そう、ここは狂人たちの溜まり場なのだ。

 溜まり場だったのだ。




 ――――――



「じゃあ、配信終わっから」


 全身に真っ赤に染めた俺――ひいらぎ幸人ゆきとはそっけない言葉を言い放ち、配信を閉じる。


「ふ、ふぅ……疲れたぁぁぁ」


 俺は地面に胡座で座り、ポーションをがぶ飲みしてボロボロになった体を癒す。


「あ゛〜、キマるわぁぁ」


 まるで、その姿は仕事終わりに冷えたビールをキメるおっさんのようだ。


 狂人バーサーカー系配信者である俺は本当はそれくらい普通の人間だ。


「スパチャは……31万5000円か! やっぱり稼ぎはいいなぁ」


 そう、稼ぎはいい、稼ぎはいいのだ。


 俺は自分のスキル一覧を開き、一つのスキルをじっと見つめる。


〈狂化〉

 理性の大半が失われる。

 痛みを感じなくなる。

 交戦的になる。


 理性が無くなり、痛みを感じなくなるという狂ったスキル。

 こんなにデメリットがあるなら筋力増強とか体力増強くらいのバフがあってもいいはずなのだが、それすらもないハズレのユニークスキル。


 本来なら入手しても一生使うことはないようなスキルなのだが……


「狂ってた方が配信ウケいいんだよなぁ……」


 正直配信しなくても、中堅と初心者の間くらいの実力は持っていると自負しているので魔石を売るだけで悪くない稼ぎにはなるのだが……今、俺の年齢は16歳、何をするにしても親の許可がいる年齢だ。


 親には将来はしっかりと働け、勉強が疎かにならないくらいはダンジョンに行ってもいいが探索者証を作るのは許可しないと言われている。

 そう、この探索者証というのがなければいくら魔石やドロップ品を持っていてもダンジョンの外に持ち運べないのだ。


 つまり、魔石をお金に換金できない……なのでいくら魔物を倒しても意味はない。

 お金がなければダンジョンで使う高額な防具や、武器、アイテムを買えないため、そこで俺は配信を始めることにした。


 初めは、同接が0人〜2人くらい。

 全くもってお金にならなかった。

 それもそのはず、俺はダンジョンに行き始めた雑魚だし、トークも面白くない。


 そんな時に出会ったのが〈狂化〉のスキルオーブだ。

 スキルオーブは使えば誰であってもそこに入っているスキルを手に入れられる超レアアイテムで売れば物によっては10億円もするらしい。


 ただ、〈狂化〉みたいな使い道のないスキルは高くても1000円でしか売れないらしく、いっそのこと配信のネタで使ってみることにした。


 そしたらいつの間にかに同接は100人まで増えていき、今ではなんと120人。

 さらに投げ銭は30万も飛び、おかげで色々と装備を揃えられていた。


 ……まあ、今の視聴者には俺が素で狂っていると思われているのが少し癪だがな。

 だが、それも30万円に比べれば大した問題じゃないさ。




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