第52話 単独登頂

■沖永良部島 大樹ダンジョン 風の渓谷 外壁

 

 スメラギ達と別れ、休憩中の間に解決しようと俺は急いでいた。


「階段なんて面倒だ! クライミングは専門じゃないが、〈粘液糸〉があれば登れる!」


 俺は外壁に糸を伸ばして貼り付けながら駆け上がっていった。

 左手は空けてモンスターが出てきたら、〈火炎弾〉で撃墜する。

 鳥のようなモンスターたちが焼けて落ちていく間に焼き鳥のようないい匂いがした。


「くそっ……このダンジョンが終わったら、いつものセンベロ利休でたらふく食べてやるぞ」


 こういう言葉を誰に聞こえることなくつぶやいた。

 俺の行動がイカルを通してガメリカ軍にばれるのを避けるためである。

 演技は苦手だし、もし通信ができなくて怪しくて追いかけられたら、その時だ。

 

「多少でも時間を稼げたならば御の字というやつだな……」


 外壁を力強く踏み込んで駆け上がる。

〈筋力強化〉の効果も遠慮なく発揮だ。

 集団で動くことを考えて遠慮していたが、俺は本来『ソロ』の探検家である。


「セーフルームも無視だ……それに、ちょっと楽しくなってきたぞ」


 このダンジョンに来てから初めて感じる自由な空気に俺の心は高揚していた。

 冷たい空気が頬を撫でていく中をモンスターを駆除して進む。

 少し前まで、潜っていた大岳ダンジョンでの日々を思い出していた。


 バキッ!


「やばいっ!」


 俺の筋力が強くなったために柔らかい木を足場にしたため、砕けてガクンと体が沈んだ。

 だが、俺には相棒がある。


「いよっとっ!」


 ザシュッと大きな音を響かせながらスコップを外壁に差し込んだ。

 やはりスコップは頼りになる。

 スコップをつかんだ手に力を入れて、少しゆがませて反動で上に飛んだ。

 丈夫なアダマンタイトスコップがしなったぶん大きく加速する。


(おいていくことになるが、まずは上に行くことのほうが優先だ)


 そうしていると、俺は一番上であろう木というよりも、塔の見張り台のような場所にたどりついた。

 大岳ダンジョンのような遺跡のようなものが目の前にある。


「〈危険感知〉に反応はなし……か」


 これには二つの意味がある。

 目の前の扉の中と、後ろからの追ってのことだ。


「さて、この扉の中に何がいるか……」


 探検家としてのわくわく感が再び出てくる。

 映画とかでみてきた考古学者というのもきっとこういう気分なのだろうか?

 ゴゴゴゴと重い音と共に扉が開いた。

 

「はぁ……空気が重いな……それにビンビンくる」


 扉をあけたときから、奥より流れてくる気配が俺の背筋を冷たくさせてくる。

 正直に言って帰りたくなった。

 だが……。


「スメラギにああいう風に言われたら、やるしかないよな」


 深呼吸を終えて、俺は暗く先の見えない廊下を奥へと進んでいった。

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