第25話 怪獣大決戦
■奥多摩 大岳ダンジョン 79階層
暴風が起こり、部屋の中を包み込んだ。
余りの風の強さで吹き飛ばされそうになるのを〈粘着糸〉で固定する。
回転する亀が近づくたびに、びゅうびゅうと風を切る音が大きくなった。
「ここは私に任せてください! 使ってみたいものがあるんです」
「何か手があるならば、頼んだ!」
俺は飛ばされそうになっているトーコ先生を〈粘着糸〉で固定した。
俺の方がスキルレベルは高いのでより強い力で固定してくれる。
後ではがすのが面倒ではあるが、吹き飛ばされては元も子もなかった。
その間にも織香が回転する竜巻へと走っていく。
「〈竜の尾〉で……ドラゴンテイルアッパーッ!」
織香の尻から鱗に覆われた尾が生えてきた。
見るからに堅そうな尾を体を捻って勢いよく振う。
ブオンと大きく空気を裂く音が鳴って竜巻の回転の下側から亀の甲羅を突き上げた。
織香とは5倍以上の体格差があったものの、竜の力が加わっているのか軽々と亀は吹き飛び、天井にぶつかる。
『ナン……ダト!?』
亀を使役していた魚人が呆然とした顔でその様子を眺めている。
口をあんぐりと開けているのは驚いている証拠だ。
:魚人くんの顎が外れそう
:これはビビるわ
:てか、技を決めた織姫ちゃんも唖然としてね?
:それなw
ガラガラと天井から砕けた破片が落ちる中、織香は深呼吸を一つして亀の真下に移動する。
しっかりとしゃがみ込み、力をためた。
ガラッと大きな音がしたかと思うと、巨大な亀が重力に引かれて落下してきた。
しゃがみこんでいた織香は落ちてくる亀を見上げると某格闘ゲームの主人公ばりの対空技を放つ。
「天織流 奥義・天龍掌!」
〈潜在能力:超振動〉をも込めた拳が巨大亀の甲羅の尖った部分にあたり、巨大亀の自重の勢いと織香の拳が合わさって巨大亀の体をバラバラにした。
:ゲージ技みたいなの来たw
:これ格ゲーなら織姫ちゃんがシャドゥになってるなw
:きゃー、織香ちゃん素敵ー!
亀からドロップしたデカイ魔石と、亀の甲羅の破片をトーコ先生が拾っている。
俺はスコップを取り出して、大型魚人に向かって構えた。
「さぁ、いろいろ喋って貰おうか? 脅しなんかはあまりしたくないんだが……」
『オマエ、ワカルノカ!』
「ああ、何の因果かな? 邪神の復活を阻止する方法を教えてもらおう」
『フッカツ、イケニエイル! イケニエ! オマエラ! イケニエ!』
〈異界言語〉もレベル1だと片言に近い感じにしか聞こえないが俺達を生贄に捧げて邪神を復活しようとさせていたようだった。
「こっちは片付いたよ~魚人との会話はどうだ~い?」
トーコ先生がとっとことと可愛いステップを踏んで近づいてくる。
ダンジョンでの活動が慣れたのか、気が張っている様子はなかった。
『オンナ! チ! イケニエ!』
大型魚人が俺を押しのけてトーコ先生に迫った、鋭い歯がトーコ先生の肩口に食らいつく。
油断していたと気づくのが遅かったが、そんなことを考えている場合じゃない。
「くそっ! 離れろっ!」
俺はスコップを振って、大型魚人の首をはねた。
トーコ先生の肩口から無理やりはがされた大型魚人の首は勢いよく空中で回転し、祭壇の中央に置いてあった盃の中へと落ちる。
すると、神殿自体が大きく揺れた。
邪神の復活が近いのかもしれない。
「トーコ先生! 大丈夫か!?」
「あはは……ちょっと、油断……しちゃった、ねぇ~」
肩口の傷が深く、血が流れて白衣をじわじわと染めていった。
俺は〈粘着糸〉で傷口を無理やり塞ぐ。
(だが、この後どうする? このままではトーコ先生の命が危ない)
顔の青さからして、出血がひどいことを物語っていた。
俺は立ち上がり、静かに織香に伝える。
「トーコ先生を背負って、出口まで急げ。ここから先は俺だけで行く」
「でも、そんな!?」
「このままじゃ邪神の復活するかもしれない……ならば、二手に分かれるのが一番だ」
「わかってます……けどっ!」
「配信は流れているから、助けが来るかもしれないし他の方法だって出来上がるかもしれない……でも、それらは可能性だ」
『オリちゃん、ここはサグルに任せて早く地上に来るんだ。こっちも今ギルド職員さん経由で救助隊の手はずをと整えてるから途中で合流だってできるかもしれない』
俺とイカルの説得を受けた織香は目に涙を大量に浮かべながら頷く。
彼女は青白い顔のトーコ先生をおんぶすると、俺に近づき、背を伸ばして唇にそっとキスをしてきた。
「かならず、戻ってきてください……サグルさんと一緒にダンジョンをもっと潜りたいですから……」
「ああ、わかっている。だから早くいけ。戦闘は極力避けて最短距離で走れ」
「はい、さっきのアダマントタートルを倒した時に入ったステータスポイントは全部AGIに振りました。全速力で走っていきます! 早めに戻ってきますから、サグルさんも気を付けてください!」
織香は涙を腕で拭ってから、神殿の入ってきた方へと走っていく。
その後ろ姿を見送った後、俺は反対のダンジョンの奥へと向かった。
「世界平和とか、本当に探検家の領分を超えているよ……まったく」
でも、織香やトーコ先生に感化されたのかダンジョン攻略のために全力を尽くしたいという気持ちにもなっている。
「平和に洞窟探検できる世界を取り戻すために、一肌脱ぐとするか……」
俺の心に迷いはなく、ダンジョンを潜っていく足取りも軽かった。
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