第21話 恐怖! 名状しがたき邪神

■奥多摩 大岳ダンジョン 71層 神殿


 石造りの静かな神殿を進んでいると、大きな広間にたどり着いた。

 薄暗くも広い室内は上の方は明りがないため暗く、闇が下りてくるのを松明が防いでいるような状態である。

 中央は祭壇のようになっており、その上に醜悪な怪物をかたどったような像が乗っている。

 一目見てヤバそうな予感がひしひしと感じるものだ。


:なに、あの像

:くぁwせdrftgyふじこlp

:SANチェックに失敗した奴がいる!?

:これはヤベェぜ……


 コメント欄も俺と同じ意見のようだが、詳しく調べてみないことにはわからない。

 歴史的発見であるならば、これはこれで俺の探検家としての成果といえた。


「トーコ先生、周辺にはどんなことが書かれている?」

「そうだね~、ちょ~っと調べてみるよ~」

「コメント欄がSANチェックうるさいので、気を付けてくれ」

「はははは、確かにこれはそれっぽさがあるよね~。ワタシも遊んでいたからわかるよ、うんうん」


 眼鏡をクイっと直したトーコ先生は祭壇の周りの文字を解読していく。

 【潜在能力】は便利だなと思える瞬間だが、それと共にどうしてこんなにもその人にとって役立つタイプの能力が覚醒するんだろうかと俺は一人考えていた。


「サグルさん、大丈夫ですか? お水のみます?」

「ああ、悪いありがとうな」


 織香からペットボトルの水を受け取ってゴクゴクと飲んだ。

 冷たい水がのどを通る度に気持ちが楽になるのを感じる。


「解析はできたけど~、これはちょ~っと厄介かもねぇ」

「どういうことだ?」

「この像は奥に眠る邪神の眷属を封じている像なんだけれど、見ての通りボロボロになっているよね~? だから、復活が近いかもなんだよ~」


:なん……だと

:【緊急クエスト】邪神の復活を阻止せよ!

:復活したらどうなるんだ? 上野や大阪の古墳みたいなスタンピードが起きるかもってことぉ!?


「スタンピード!? モンスターがダンジョンから外に溢れ出してくるというあれですか!? そんな、都内から離れているといってもここでモンスターが溢れたら大変なことになるじゃないですか!」


 織香がコメントに出て来た言葉を読んで顔を青くした。

 その反応に俺は首を傾げるしかない。


「スタンピードってそんなにヤバイことなのか?」

『モンスターがダンジョンから出て、町を襲ったりするのがスタンピード。タイタンとかいたし、あんなのが街中に出たら阿鼻叫喚待ったなしだよ』

 

 イカルの言葉に俺は眉根を寄せて考えた。

 これで、撤退するという道はない、だがその場合はイカルや配信を見ている人らに実情を伝えてもらうのがいいだろう。


「よし、そうであればなるべく早く地下に潜って邪神の眷属をどうにかするぞ」

「わかりました!」

「まぁ~、そうなるよね~」

「魔力濃度がどんどん上がってくるだろうから、10階層事にキャンプ張って慣らしていくぞ」


 ただの探検家とはいえなくなったが、このまま逃げるのも外聞が悪かった。

 半分あきらめもあるが、やれるだけやると心に決める。

 神殿の階層を下る速度を早めていった。

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