第10話 織姫 VS 迷宮令嬢

■DAI Prark Dungeon Villege 屋内シミュレーター


 先に接敵したのは姫野だった。

 姫野はSTRとAGLを高めている、軽装戦士型のスタイルである。

 素早い動きはスメラギよりも得意なようだ。

 

「はぁぁぁっ! せいっ!」

 

 ガントレットで殴り、背後のゴブリンを蹴りでいなす。

 複数人の対戦はであるが、今は装備も万全で体調もいいからか姫野の動きは良かった。


「やるなぁ……あれでBランクか」

「冒険者のランクは直接的な実力もあるけど、素材を持ってきた貢献度もかかわってくるからねぇ、単純な力は冒険者ランクではわからないんだよねぇ」


:ほんそれ

:冒険者ごとのランキングとか作れないんかな?

:何を基準に作るかだよなぁ

:ステータスとか?

:どうやってそのデータを取るんだよw


 俺とイカルは姫野がゴブリンを倒していく様子をみながら、話をしているとギャラリーから大きな歓声があがる。

 視線をそちらに向ければスメラギがハルバードから雷撃を飛ばしたり、まとわせて払ったりしながら戦っていた。

 堅実な戦いをする姫野と対照的にド派手で見栄えがいい。


「ゴブリン程度では肩慣らしにもなりませんわね。せめて見栄えのいい戦いをしてギャラリーやサグル様にアピールしませんと」

「むむむぅ! 派手さだけじゃ、サグルさんは惹かれないですからね!」


 そういって姫野はダンスをするかのように動き回ってゴブリンを倒す。

 スパッツを履いてはいるものの、スカートが揺らぎ、健康的な尻が見えるのは派手さ以上のものがあった。


「サグルも男の子だねぇ」

「うるさい、余計なことを言うな……」


 ニヤニヤ笑って弄ってくるイカルを黙らせて、勝負を見守る。

 俺は冒険者として戦うことに主眼を置いてはいなかったが、生き延びるための泥臭さや効率化よりも配信していくならば、姫野やスメラギのような華があったほうがいいというのがよく分かった。


「どちらも凄いな。圧倒される」


:スコップ師匠の含蓄がんちくのある一言いただきました!

:さっきまで鼻の下伸ばしてたのに

:美女二人に気に入られるって、どんだけ前世で徳を積んだんだ?


 短い俺のコメントだったが、チャット欄は盛り上がってくれている。

 同時接続数は1万を超えている。

 1回目の配信だとしたら、かなり多いんじゃないか? 俺なんか今年の4月から始めても、同接1以上になった覚えがないくらいだ。


「残り1分ー」


 チャット欄をみたり、考え事をしていたらいつの間にか残り1分になっている。

 司会進行をしながらも、チャット欄のコメントを拾って対応するイカルは神がかっていた。


「必殺技いきますよ! 私も悔しい思いをしたので、頑張りました!」


 姫野が宣言すると息を整え、気合いを入れ直す。

 精神統一をしたあと、ゴブリンが大量にやってきた中で地面に手を突っ込むと〈潜在能力:超振動〉ユニークスキル:ハイブレイカーを発動させた。

 シミュレーターで変化している地面だけが大きく揺れて、ゴブリンとスメラギの動きが止まる。


「名付けて、〈地面噛〉アースバイト! 」


 さらに腕を地面に突っ込んで振動を流し込むと地面から牙のように尖ったものが生えてスメラギが戦っていたゴブリンたちもまとめて貫いた。

 スメラギもやられそうになったが、華麗に回避する。

 その時、終了のブザーが鳴り響いた。


「これは決まりまったね。織姫ちゃんの勝利ー!」

「仕方ありませんわね。十二分の強さを見せていただきましたわ」

「ありがとうございます」


 イカルが終了を宣言すると、洞窟のような場所も、ゴブリンも消えていった。

 姫野とスメラギはともに歩み寄って、握手を交わす。

 その決定的瞬間をギャラリーがスマホのカメラで撮影していった。


「今日の配信はここまで! またの配信を待っててなー。夏休みの間は毎日動画を更新していくから、チャンネル登録よろしくねー! ばいばーい、ほらサグルも」

「お、おう……じゃあな」


:スコップ師匠お疲れ!

:織姫ちゃんとのデートをちゃんと配信してね

:乙コップ!

:乙コップ!


 俺が挨拶をして配信を終えると、コメント欄では謎の挨拶が生まれていた。

 これが配信というものなのかと、楽しい思いで終えられる。

 イカルには感謝しかなかった。


「サグルさん、お疲れ様でした! 1日レンタルは、大岳ダンジョンを攻略したら使わせていただきますね!」

「姫野……すまないが、そういうのはフラグにしか聞こえないからやめてくれ……」

「ふらぐ? ふらぐってなんですか?」


 最後の最後で特大の地雷を受けた俺はダンジョン攻略が不安で仕方なくなった。

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