第14話 涙色の海

レストランで食べた料理は、さすが海外だけあって

ボリュームがあり、食べきれないほどである。

そして初体験のアサイボウルは格別だ。

南国らしい沢山のフルーツが山盛りでとてもヘルシーだった。


「まだ時間はあるわ。今日はのんびり身体を休めましょうよ」

千賀子の言葉に、みんな賛成し、一旦珠恵の家に行くことになった。


珠恵の自宅はタムニング地区にある。

その地区に時男達三人も宿をとっていた。


珠恵は三人を車に乗せ、グアムの海岸線を走らせた。

道路わきには、ヒョロリと背の高いヤシの木が並んでいる。

日本と違ってそんなに高層ビルがないので、どこを走っても青一色。海も空も一体化してしまいそうだ。


――こんな遠くの国まで流れてきたのね――


遠浅の海岸は、愛の生まれ育った三陸の海岸とは全く違っていた。

愛の知っている海は、岩場の海岸で荒くれる事が多い。


日本から飛行機で3,4時間くらいしか離れていないのに

同じ海でも、こんなにも違う事に愛は驚いていた。


愛は、少しホッとしていた。


――船の行きついた先がグアムで良かった…――


これが荒れ狂う海であったならば、

母の御霊が彷徨っていると思い、哀しくなるからだ。


ここは、まるで天国のようだ。

愛は、母に導かれて来ることになったと、運命のようなものを感じていた。


「愛ちゃん。もし良かったら、アサン海岸へ寄ってもいいかな?」

「アサン海岸…ですか?そこに母の船があるんですか?」

「いえ。船はね、かなり腐食していて、そのまま海岸へは

置いておけなかったの。だから、私の自宅のガレージに

移動してあるわ」


珠恵の善意に、愛は感謝した。


「私、ここで暮らすようになって、日本を俯瞰して見れる

ようになったわ。愛ちゃん、今回のご家族の事は本当に

辛く悲しい出来事だったとおもう。ゆっくりでいい。

辛い記憶からご家族を想い出すMemorialDayに変えてほしいって思うの」


程なく、アサン海岸に到着した。

展望台から眺める海は壮観だ。

海岸線には白い波。深い青色の海。

グラデーションに蒼く広がる空。


展望台の所に、太平洋戦争国立歴史公園はある。

時間の関係で閉館しており、中に入る事はできなかったが

周りの景色を眺める事が出来た。吸い込まれそうだ。


太平洋戦争時に、この美しい土地は激戦地だった。

日本人、アメリカ人や現地人に多数の死傷者がでた。

当時は皆、哀しみに暮れていた事だろう。

戦後、幾星霜の時を重ね、今の其々の繁栄がある。


――私も、そのように記憶に変える事ができるんだろうか―


今の愛にはそんな事考えられなかった。

冷たく固くなった母の手。

白い箱に収められた父親。

顔に泥がまだ残っていた祖父の顔。

どれも、現実だ。


いつの間にか、愛の瞳から涙が零れていた。


涙は高台に吹く風に乗って海へ飛んでいくのだ。

涙は戦争で流された涙と混じり、ひとしずく

ひとしずくと積み重なり、広大な海になったのかもしれない。


美しくも哀しい海。愛はそう思った。

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