第41話

 桜島を左手に眺めながら南下を続ける。

 アッシュパンサーの走行スピードはテンマの感覚からすると時速60キロより少し速いといったところだろう。荷物も多かったので跨るの丁度良いサイズまで小さくすることはできず、バイクよりも視線が高くなっているので直感的に速度を計ることは難しかったが大きくズレてはいないと思われる。

 コボルトの集落を出発してから30分もしないうちに桜島も左後方に移っていき、視界に捉えておけなくなってくる。代わりにコボルト達が御山と呼んでいる峠の輪郭がはっきりと見えてきた。

「スゴイでござるっす。もう御山があんなに近くに!?」

 タユタもアッシュパンサーに多少慣れてきたのか、時折悲鳴を上げながらも周囲に目を向ける余裕もできてきたようだ。

 早いと感じない方がおかしい。

 いや、直線距離をよーいドンで駆け抜ければアッシュパンサーとコボルトの走行スピードは大きく変わらない。しかし、それは周囲の安全が確認されている場合に限られる上に、ごく短い距離での競争ならばという条件も付けなければならない。

 コボルトの移動速度が人間よりも早いとはいえ、周囲の警戒をしながら安全なルートを移動するためにコボルトの集落から内陸方面に一度迂回してから行商人が利用する街道のような道を利用していた。

 内陸方面の高台に周囲を見渡せる展望台が備わっており、そこで街道の様子を確認してから出発するのが習わしとなっているのだ。そこに向かえば行商人などに出会うことができ、情報収集も期待できるだろうが見張り番が常駐しているような場所でもないので無駄足になりかねない。

 そのため、今回は無視して最短距離で駆け抜けている。

 テンマが渡るのに苦労した川も数秒で水上を駆け抜けたほどだ。

 そう、水上を駆け抜けたのである。浅瀬であるとかそういう問題ではなく、水の上を地上と同じ感覚で走り抜けたのだ。

 これにはテンマも唖然とした。どういうこっちゃ? と疑問を口にすると


『回答。衝撃を加えることで固形化するダイラタンシー現象を応用し着水部分が沈み込まないようにしています』


 という説明が返ってきた。

 ドロドロの片栗粉の上に乗ってバタバタと衝撃を加え続けると沈まないという面白実験を見た記憶を思い出し、なるほどわからんとなりながらも納得する。

 アッシュパンサーは疲れることはあるものの、基本的にエネルギーが残っていれば動き続けることができるとあって軽快に走り続けた。どういう原理かわからないが、徐々に速度が落ちていくというよりは、一定の速度で走り続けエネルギーが切れた途端にパタリと動かなくイメージが近いようだ。

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