第7章 遥かなる時間の旅路

第39話

 マクラザキに向かう日取りがミオの主導でテキパキと進み、3日後には出発することになった。

 コボルト達からはクナイの他にはタユタとユナの若いコボルトが3人と、お目付け役的にジュウベエが一緒に行くことになった。

 

 そして出立の朝、村の玄関口には荷造りを終えたテンマと5匹のアッシュパンサーが並んでいた。テンマの荷造りといっても大したものはない。

 所有物がないのだから、ここに来てから手に入れたものばかりだ。

 それでも、ロゼが獲ってきた鹿などの革や毛皮を使ったジャケットやズボン類、カイコアリの糸を使った下着などを労働や知識の対価として作ってもらうことができたのでリュックひとつ分の量にはなっていた。

 コボルト達の技術では簡単な物しか作れないということで些か不格好ではあるが、この世界の標準がわからないので気にしても仕方ないだろう。

「ロゼ。留守の間、村の事は頼んだぞ」

 テンマが時間跳躍してやって来た日、桜島では大規模な噴火が発生した。それによってロゼが誕生したのだが、大規模な噴火の後には同じく大規模な噴火が続くこともあれば小規模な噴火が群発することもしばしばだ。

 今回は少し日にちを空けたが小規模な噴火が続いたのである。

 その時に生まれた黄眼のアッシュパンサーが5匹、風向きの影響もあったのかこちらに向かってきたのでロゼに取り押さえてもらい、W-inプログラムの書き換えに成功していたわけである。

 5匹の名前はサム、インデックス、ミドル、リング、ピンキー。

 5という数字で単純に親指、人差し指、中指、薬指、小指を順に付けていったに過ぎない。


「テンマ殿……。本当に乗っても大丈夫でござるか?」

 コボルトを代表してクナイが恐る恐る問いかける。

 テンマとしても、そんなの知るかいなという気持ちなのだが、ロゼをはじめウィンデーも太鼓判を押しているので大丈夫と思うしかない。サム達もロゼ同様に言葉を話せるので意思の疎通が出来る分、必要以上に怖がることもないとは考えていた。

「大丈夫だよ……たぶん。俺もアッシュパンサーに乗って移動するのは初めてだからどんな乗り心地なのかはわからんけど」

 これにはコボルト達も安心したような余計に不安になったような顔になってしまう。その辺、空気を読まないのがタユタだ。

「ちょっ⁉ 本当に大丈夫でござるっすか⁉」

「まあ、乗り心地は保証できないけど、こいつらが捕まえていてくれるから落ちる心配はないさ」

 ロゼもそうだが、サム達5匹も元々が火山灰から生まれている。そのため、体の構造は不定形なのだ。根本がゴーレムであるとウィンデーが話していたが、テンマの感覚からしたらエレメント系のモンスターも混ざっているように思えている。

 固形の魔獣というよりは、流砂の魔獣。そんな雰囲気だろうか。

 そのため、体の大きさもある程度は調整できるし、騎乗に必要な鞍や手綱といったアイテムも彼ら自身の体を変形変化させることで作り出すことが可能だった。むろん、こんな芸当ができるのはウィンデーのサポートあればこそである。

 これもあって、出発の準備が早めに終わったというのもある。


 テンマがサムに乗ると、クナイ達もそれぞれ相棒を決めてアッシュパンサーの背に跨る。すでにアッシュパンサーの背には物々交換用の食料や魔物から取れた素材といった物が積み込まれている。

 こういった品々を準備している時に初めて知ったのだが、この世界の魔物からも魔石が取れるのだそうだ。

 これが魔道具のエネルギー源として用いられ、場合によっては高値で取引される。

 ロゼの体に埋まっているような魔石であればコボルトの集落が数年は食べる物に困らないということだった。

 しかし、コボルト達が自力で退治できる魔物は多くなく、ロゼのような個体が相手では返り討ちに合う可能性の方が高い。ロゼどころか、黄眼のサム達でも犠牲者なしでは無理だろうという話だった。

 ここに集められた魔石も魔物から取り出したものは半分もなく、活動停止した魔物を偶然見つけた際に採取した物がほとんどだった。

 またこれらとは別に貨幣もしっかり流通しており、コボルト達も使用している。

 使われているのは真珠なのだが、どう考えても人工物と思える統一された色合いである上にサイズもキレイにそろっているのだ。黒真珠だけ3種類の大きさがあるのだが、大中小と大きさ重さ形状に至るまで完璧に揃っている。

 米粒サイズの小さいものが1円相当、中サイズが10円相当、大サイズが100円相当といった貨幣価値があるようで、その上に大サイズの色違いが存在する。大サイズといっても、真珠としてはそれが通常のサイズであろう。

 1粒1000円相当の価値があるという銀真珠と1万円相当の価値がある黄金真珠があり、コボルト達が今回用意したのは全部で5万円相当の真珠であるそうだ。大部分が黒真珠で革袋2つにわけられクナイとジュウベエが別々に管理している。

 だいぶ少ないように思うが、取引は主に物々交換で行い、調整のために真珠は使うだけであるらしい。

 気になるのは、誰がこれを作っているのか? なのだが、コボルト達は疑問に思ったこともないほど自然に存在しているらしい。 

 本当に真珠なのか調べてみようかとも思ったが、異常な頑丈さで削ることも割ることもできなかったので諦めることにする。どうやら、W-inプログラムが関与している案件だろうと推察するに留めることにした。

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