第37話

「いやー。いつも食べている味気ないパンが、ひと手間加えるだけであれほどふわふわトロトロの食感になるとはビックリでござるっす。人間殿はいつもこんなに美味しいものを食べてたのでござるっすねえ」

 タユタが長いこと感動に打ち震えた後でテンマに感謝を述べている後ろでは、ミオとクナイがタマゴと牛乳の増産を画策していた。

 鶏も牛も育てているが今回のように贅沢に使うとなったらすぐに数が足らなくなってしまう。かといってフレンチトーストを2~3週間に1度しか食べられないとなると物足りない。

 では、どうするかとなったら、鶏と牛の数を増やすしかないのだが、どこに鶏舎と牛舎を増設するかであったり誰に育てさせるかといったり解決しなければならない問題が生じてくる。

 仮にも村長むらおさの家族であるので相応の責任を負う立場であるのだ。思い付きで軽々に話を進める訳にはいかない。

「やはり、生ませるよりは買ってきた方が良いでござるな」

「そうねえ。鶏舎と牛舎の増築も考えるとドワーフさんに頼った方が賢明でしょうねえ」

「確か、そろそろマクラザキに鰹節を買い付けに行かなければならぬはずでござる。その時、エルフかドワーフの方にご助力願えるように交渉してもらいましょう」

 フレンチトーストひとつで大騒ぎだなと思っていたテンマだったが、思わぬ方向に話が転がったことに驚く。

「ちょっと待った。マクラザキ? って、あの枕崎?」

 自分でも奇妙な尋ね方だなと思いながらも訊かずにはいられなかった。

 自分自身も鹿児島の南方、枕崎の隣町とも言うべき場所に暮らしていたので馴染みのある土地もいくつか存在する。

 コボルト達にとってはどのマクラザキだよ? って感じなのだが、クナイもミオも日本語の読み書きができることから何とか言わんとすることは伝わったようだ。

 コボルト達の言語を理解する種族は少ないので、コボルト達が日本語の読み書きを覚えるのだということを、この時ようやく知ることになる。


「御山の更に向こうにある港町で間違いないでござる。そこでは職人気質の人間殿と一緒に少数のドワーフとエルフが共同生活しているでござるよ。拙者らのような者とも気軽に取引をしてくれるので、定期的に交流して食材や日用品といったものと交換しているでござる」

 クナイの説明を聞いた後、周辺の地理についても訊いておく。

 どうやらマクラザキはコボルトの集落と同じような扱いの場所だが、モンスターの襲撃が少ないこともあって規模は大きいようだ。

 また、ここからマクラザキの間にある御山というのが何なのかも少し見えてきた。

 どうやら、南方の峠を越えた辺りから南西に人間の国があるらしく、そこで暮らす人々がかなりの武闘派なのだそうだ。

 クナイの身につけている武具もそこから流れてきたもので、老若男女が武人として生きる物騒な国らしい。

「拙者らも怖くて近寄れないのでござるが、御山には妖怪〈首置いてけ〉というバケモノが出るそうでござる。拙者らでは太刀打ちできない魔物が出た時には命がけで御山まで誘導して退治してもらっているのでござるよ」

「どこのドリフターズだよ」

 妖怪〈首置いてけ〉というワードに聞き覚えがあり、思わず突っ込んでしまうが当然コボルト達はキョトンとするばかりであった。

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