第35話

 未知の昆虫なのか新種のモンスターの1種なのかも判断がつかないまま、カイコアリに関して微妙な空気になったところで咳をひとつ挟んで話題を変える。

「昨日は、ごちそうさまでした。碌に礼も言えずに倒れてしまって、申し訳ない」

 コホンと何事もなかったように区切ると、代表してミオに頭を下げる。

 炊事場を取り仕切っているのがミオであることは間違いなさそうなので、テンマとしては自然な行動であった。

 ところが、これにコボルト達は一瞬だったがざわつく。

「あらあら、ご丁寧にありがとうございます。御口に合ったようでしたら良かったですわ。わたくしどもでは人間様の好みが分かりませんで、皆して不安に感じておりましたから嬉しいです」

 正直、口に合ったかと問われると薄い塩味のものがメインだったので物足りなくはあったが、醬油や味噌といったものも量は少ないが準備されていたので味を楽しむことはできていた。

 欲を言えば甘味が足らないかな? といったところだが、それは贅沢というものだろうことくらいは察している。

 しかし、炊事場に来て調理道具や食材を直に見ることができたことで、少し思い違いをしていたことに気づいた。

「いやいや。本当に美味しかったですよ? ところで、この辺に置いてある壺の中身は調味料?」

 炊事場は10人くらいのコボルトが動き回っても余裕のある広さ。

 壁沿いに釜土が3つ並び、中央に水の入った樽が置かれている。そして蛇口の近くに洗い場と作業台が並び、その隣にたくさんの壺が置かれた棚があった。

 食材は釜土の反対側の壁に置かれた冷蔵庫に該当する魔道具の中に収められているか、その隣の棚に整頓されて置かれている。

 調理器具も包丁や鍋、フライパンといった物も充実しているように見えた。

 テンマの思い描く台所に不足しているのは電子レンジとトースターくらいのものではないだろうかというレベルである。炊飯器や冷蔵庫もないとはいえ、代替品が備わっているので問題ないだろう。

 集落の中には、広さは及ばないが他にも炊事場は点在しており、近くの住人が寄り集まって食事を作っているらしい。

「塩はこの浄水器で採ることができますが、他は行商で来られる方から買っております。味噌や醤油といったものは作り方を教えてもらっているので倉に小麦や米と一緒に保管していますが……。ご覧になりますか?」

 ミオの言葉に甘えて壺の中を見せてもらう。

 塩、味噌、醤油だけでなく酢、みりん、砂糖もそろっているではないか。それに、昨夜の焼酎とは別に料理酒に該当するものは別でしっかり保管されていたのだ。そのまま保冷庫の中も見学させてもらう。

「これだけそろってるなら……」

 その後も色々と尋ねながら食材を見て回るとミオに切り出すことにする。

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