第32話

「それにしてもスゴイでござるっすね。テンマ殿、いったい幾つの魔法を使えるでござるっすか? 自分、神名持ちの方に知り合いがいないんで知らないでござるが、確かどんな名家でも2つか3つ使えれば侯爵になれるって聞いたでござるっすよ? そうでなくても子爵以上なら重要NPCの地位に就けるんでござるっすよね?」

 最初こそ慌てた様子だったクナイも、タユタの心底感心した話し振りに耳にして次第にうんうんと頷き始める。

 しかし、当のテンマはまたしても聞き捨てならないワードの登場に面食らってしまっていた。

 テンマの起こした奇跡を魔法と呼ぶのはわかる。実際、高度に発達したテクノロジーは魔法と見分けがつかない評されるほどなのだ。むしろ、魔法と言われた方がテンマとしても受け入れやすいほどだ。

 この世界も爵位制なのかというのも気にはなったが、問題は重要NPCの方であるだろう。


「重要NPC?」


 誰に問いかけたわけでもない。いや、どちらかといえばこの場の3に問いかけた言葉であった。

「テンマ殿はそれだけの魔法が使えるのに重要NPCではござらぬのか? 拙者、てっきり神名持ちの方の中でも高い階級なのかと思っていたのでござるが……」

 クナイの返答は、予想通り謎を解き明かす手がかりにはならなさそうだ。それはタユタも同じで、新たな情報が語られる気配がないことからも明白だ。

 わかったことと言えば、重要NPCにも階級が存在するということくらいのものである。

 そうなると、期待できるのはウィンデーだけなのだが。


『情報が不足しているため回答できません。もっと情報を集める必要があります』


 どうやらウィンデーの情報網にも必要なものは見つからなかったようだ。もしかしたら、コボルト達も正確な情報を持っていないのかもしれない。

 何はともあれ、テンマの腕が再生したこともケガが治ったこともコボルト達にとっては驚くべき事件ではあっても、そんなこともあるよね、という程度の出来事で収まっているらしい。

 それだけでも一安心といったところだ。

 思い返してみれば、魔法が存在することは昨夜の食事中に色々聞かされていた。ただ、テンマの思い描いている魔法とは異なり現実的な技術の範囲に収まる性能であるように感じていた。

 確かに火をおこすのに呪文の詠唱――コールと同じようにキーワードの発音――するだけで指定の場所に小さな火を発生させることができるといった魔法に相応しい現象を起こすことができる。

 しかし、それはあくまでもW-inプログラムが干渉できる物理現象でしかないことがウィンデーの解析で判明していた。


 それを実現させているのが錬金術のプログラムであるらしい。

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