第30話

「話は変わるんだが、ロゼに食材を取りに行かせたみたいなことを言ってただろ? ロゼに命令できるのか? っていうか、ロゼはコボルト達とどう違うんだ?」

 そもそも火山灰から肉体が生まれているのだから出産によって増えているコボルト達と根本的に違うことは明らかなのだが、ハッキリさせておきたかった。


『マスターの求める回答としては、ロゼは魔獣と呼ばれていますが身体構造的にはゴーレムに該当する魔法生命体が近いと思われます。そのため、外部から命令を与えられることでより高度な活動を行える個体です。また、ゴーレムであるため蘇生という概念は当てはまらず再生が蘇生と同義になります』


「ゴーレム……」

 確かに、ウィンデーに指摘されて改めて考えてみれば火山灰から生まれているのだから無機物で構成された肉体を持つ魔法生命体というのはしっくりくる。

 見た目が四足獣なので魔獣と呼ばれることに違和感がなかったのだが、ゴーレムに近いと言われて納得してしまう。

「でも、自由意志はあるんだよな?」

 

『ロゼは特殊個体として調整中です。基本的に自由意志で活動させていますが、マスターを守るガーディアンの役目にもタスクを割いているのでW-inプログラムを介して命令系統を構築中です。ただし、マスター本人の命令を最優先で実行させるように調整していますので、重要案件を任せたい場合は直にやり取りしてください』


「いや、それって別の指令を実行中だと直接やりとりはできないよね?」


 テンマは普通とは違う体になったとはいえ、ただの人間である。スマホも使えない世界ではテレパシーでも使えなければ連絡の取りようもない。

 しかし、これを受けてウィンデーの反応は早かった。


『要請を受領。ロゼとの個別回線を構築。遠隔での会話を可能にします』


「え⁉ できるの?」


『回答。可能です。通話にはワレラを介してアカシックレコードを経由する必要があるため若干のタイムラグが発生する可能性がありますが、秘匿性は電波に比べて格段に高いため安全性は強固であると判断します』


「それも訊きたかったんだが、ウィング? とか、他のW-inプログラムの干渉とか受けないのか?」


『回答。ワレラに与えられている権限は全てのW-inプログラムの中で最上位ですので、下位のプログラムによる妨害等の心配はありません。ただ、マスターが消失していた期間に限ってはワレラの活動がスリープ状態であったため抵抗できずに侵食されてしまったようです。そのため、この時代に現存しているウィンデーはマスターの体内に残っていたもの、及び、それを摂取した個体から増殖したものに限られるため処理能力が著しく低下しているのが現状です』


 そう言っている間にもプログラムが出来上がり、使い方を説明してきた。

「キーワードを発することでロゼとの回線がつながって、後は普通に話しかけるだけか。使いやすそう……だけど、キーワードを会話の中で使ってもつながるんだったら面倒なことになりそうだなぁ」

 今までは友達もいないので日常会話といったら職場での限られたものがほとんどだったので気にするほどでもなかっただろうが、ここでは引きこもりの生活は推奨されないだろう。

 そうなると積極的にコボルト達とコミュニケーションを取るべきに思えたので、キーワードの設定には慎重にならなければならない。しかし、かといって日常からかけ離れ過ぎていたら咄嗟のタイミングで思い出せない可能性もある。

「特定のジェスチャーとキーワードが組み合わさった時に限って回線をつなげるとかに変更できないのか?」


『身体の欠損などにより実行できない可能性もありますが、メリットの方が大きい

と判断し要請を受領。可能です。どのようなジェスチャーを組み合わせますか?』


 これにより、拳を握り親指と小指を伸ばし親指を耳に小指を口に当てる仕草と「コール」のキーワードを組み合わせた場合に回線をつなげる仕様が出来上がった。これなら左右どちらかの手が残っていれば実行できるだろうという判断もあってのことだ。むろん、今後腕を失うような事態には陥らないことは願っている。

 更に、今後コールできる相手が増えた時に備え、「コール」の後につなげたい相手の名前を付け足すことで誰と通話するかを選択できるようにシステムが構築されることになる。

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