第5章 魂のありか
第28話
テンマが目を覚ました時、今度は慣れた感覚があった。
馴染みのある夜明け前のひと時。もっと眠っていたいが、年のせいか体の節々が痛むようなダルさも感じる。
昇り切っていない朝日が薄っすらと部屋の隙間から射し込み、記憶にあるが自分のではない部屋の中にいることを確認する。間違いでなければ、前回目が覚めた時と同じ部屋だ。
まだコボルト達は起き出していないようで、周囲から生活音は聞こえてこない。いや、これだけ静かだとコボルトが存在するのかどうかも怪しく思えてしまう。
「夢の中じゃないんだよな?」
食われた左腕は元通りになっている。折れていると思い込んでいた骨もしっかりくっ付いている。この部屋で横になっていなければ、今までの奇妙な出来事は夢オチにしてしまいたい気持ちだったのだ。
『マスターの脳波の状態から覚醒状態にあると言えます』
ウィンデーからのシンプルな回答。
もちろんテンマも分かっている。ウィンデーから返事があった時点で夢の中の奇怪な出来事ではなかったことを意味するのだから。
眠気は残っているものの、脳は完全に起きている。このまま二度寝はできそうにななと体を起こすと、部屋の中には他に誰もいないことを確認してから昨日の会話の中で今度訊くことフォルダに保存しておいた質問をいくつか問いかけることにする。
「訊きたいんだが、破損部位と欠損部位を修復するプログラムってどういうことなんだ?」
『回答。アカシックレコードに保存されているマスターの情報を元に身体を最適化させるプログラムです。昨夜はプログラム構築の途中であったため、現在の情報から復元させるだけに留まっています。プログラムが完全に構築された際にはアカシックレコードに残るマスターの情報の中から最適なものを抜き出し身体を再構築することも可能になります』
テンマの率直な感想は――何言ってんだ? コイツ――だ。
それでも、可能な限り自分の頭の中で情報を整理してウィンデーの言わんとすることを理解しようと努める。
しかし、やはり推測で判断するには限界があったために、その後も何度となくウィンデーとやり取りを繰り返す。
そして……。
「つまり……俺を若返らせることも可能な上に、違う時間軸の俺の記憶と経験もインストールできるってことか⁉」
粘り強くウィンデーも受け答えしてくれた。ウィンデーに疲労の感覚があるのかは不明だが、要領を得ないテンマの問いに投げ出すことなく返答してくれたことで時間はかかったが答えに辿り着いくことができていた。
このやりとりの間もウィンデーのAIが向上したのか、徐々に互いのズレが埋まっていく感覚があったのも大きいだろう。
『その認識で概ね合っています。実行するためにはアカシックレコードとの接続から制限が完全に解除される必要がありますが、現在でも同一時間軸の情報を元にした復元と再構築は可能になっています』
「確認なんだが、それが出来るのは俺だけなのか? それとも、他の……コボルト達やロゼもできるのか?」
『情報が不足しているので正確な回答はできませんが、可能だと判断。ただし、この時代に生きている生命体に関する過去及び過去の時間軸のデータは存在していませんので、マスターのように記憶を復元させることは困難です。同じ肉体で別の記憶を持つ個体も同一の生命体であると仮定するなら別になりますが、蘇生に該当するレベルの修復は不可能であろうと思われます。また、ロゼに関しては身体構造の違いから異なるアプローチが必要になると思われます』
少しは会話にも慣れてきたなと思った矢先、またしてもウィンデーの回答に目を白黒させることになる。
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