4章 夕暮れ時
林檎が自転車の2人乗りを断った為、ましろは自転車を引いて林檎の隣を歩いていた。自転車カゴに入れている小動物のラプスは小さな寝息を立てている。
「綺麗な夕暮れだねー」
夕焼けがましろの銀色の髪をオレンジ色に染めている。店を出てからの話によると、ましろの両親は日本人とイギリス人らしい。母親が日本人で父親がイギリス人。驚くことに、2人とも
「研究に没頭してて、ボクのことは殆ど人任せでほったらかし。アーバンさんがボクのおじいちゃんみたいだよね」と、ましろはどこか寂しそうに言う。
事実、アーバンと血の繋がりはない。両親がアーバンが
「最初の頃、ボクとアーバンさんは仲が悪かったんだ。アーバンさんと両親は知り合いだったけど、アーバンさんが子供嫌いでね。今はそうじゃないけど。最初の頃はあそこはバーだったんだ。ボクが来た後にカフェ&バーになった。そのせいで経営時間は両方短い。あ、キミに手伝ってもらうのはもちろんカフェのほうだよ」
「えと、それはわかってますけど、何も今日も送ってもらわなくても!今日は
「キミの遭遇した
「ちょっと……?」
林檎が首を傾げると、ましろはポケットから飴玉を取り出して舐め始めた。林檎にもひとつくれたが、林檎は飴玉を鞄のポケットにしまう。
「ちょっとって、どういうことですか?」
「うーん、言ってなかったっけ?たぶん、完全には倒してないよって。倒したのは狼だけだから、また何かの拍子に赤ずきんの
「それって、私が今日関わるのを断っていたら」
「影ながら守るつもりだったよ。赤ずきんの
「い、いえ、守ってもらってる側なのにとんでもないです」
ひとつ年上の男子生徒とーー普通ではないが、普通のような会話。緩やかな坂道に隠れようとしている夕日が林檎のボブカットの髪も染め上げる。
2人が坂道の上に到達したその時だった。
「お久しぶりですわ。月影ましろさん」
「ーー」
一際高い声にお嬢様口調。流れるような長い金髪がオレンジ色に染まっている。ましろとしては、あまり会いたくなかった人物が夕日を背景にし、スーツケースを引いて立っていた。あまりの展開にましろは息を呑む。
「ましろさんの知り合いの方ですか?」
「ら、来夢……どうしてまた日本に」
夕日に彩られた金髪を流し、来夢と呼ばれた少し大人びた少女はブーツの音を鳴らして歩み寄り、ましろの襟首に掴みかかる。
「私がまたわざわざ日本に来ることになったのは、貴方のせいですのよ」
「ぼ、ボクのせい?!なんで?」
「貴方がきちんと
「す、ストップ、ストーップ!苦しいってば!事情を知らない子も居るんだから落ち着いて来夢!」
来夢がましろに掴みかかっている間、林檎はましろの自転車が倒れないように支えていた。自転車カゴの中の小動物は呑気に眠ったままである。
「その子に事情は粗方説明されたのでしょう!先に店に立ち寄ってアーバン氏にお会いしましてよ。入れ違いになったことをお聞きしましたわ」
「スーツケースも預けずに、ましろさんを急いで追いかけて来られたんですか?」
「なっ!?」
来夢の顔が熟れた林檎のように真っ赤になったのは一瞬だった。来夢はすぐに上品さを取り戻し、ましろを正面から見据えた。
「こほん。ーーとにかく、この度私は日本・
「一応聞いておくけど、家はどうするのさ。キミのこの街にある屋敷?」
襟首掴みから解放され、咳き込みながらましろは来夢に訪ねた。
「いいえ。今回は使用人達は移動配属に含まれていませんでしたの。まぁ、私も貴方も以前より幼くはありませんし?ですので、アーバン・レジェンドの一室でお世話になることにしましたわ。アーバン氏には既に報告済みですわ」
「ええ……?そんなぁ……」
アーバン・レジェンドはカフェ&バーとは別に、離れに小さなホテルのような建物がある。組織に属する人間が泊まれるように個室が幾つかセッティング済みだ。ましろはその中の一室を借りて住んでいる。
「えっ!?アーバンさんのところは宿があるんですか」
「うん。それも言ってなかったっけ……」
アーバンは両親の厄介ごとだった
林檎は一晩かけて両親を説得することに決めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます