第11神話 背負う者と背追う者①
「さて、私達は一旦この部屋に戻って来たけど…………どうするよこれ?」
「どうするもこうも、取り敢えず片付けるしか無いやろ。」
俺達は先程の面接をしていた場所に戻っていた。そこには戸棚は倒れ、食器は散乱し、照明は天井から落ちてしまっている。
水道管は壊れ、水がチョロチョロと垂れ流れたままだ。
木製の床は広範囲にバキバキに割れてしまっている。
「あぁ……」
マサルがやけに悲しそうな声を出す。
まぁ、言いたいことは俺でも察した。
「これ直すのどんぐらいかかるんや?」
「やめてよ…そんなことは後でいいじゃない……今はこの現実から背けときたいのよ。」
ラヴァナは悲しさと悔しさいっぱいの両手で目を圧迫する。
現実逃避に縋りたい一心での行動だろう。
「はいはいお前達。そんなことは後回しだ、後回し。まだやることはたくさんあるぞ?」
そう言いながらネヴァが二人にさらなる追い打ちをかける。
「「…はーい。」」
勿論やる気のない返事が返ってくる。だがそれでもネヴァは容赦なく事を進める。
「じゃあマサルとラヴァナはこの残骸達を廃棄場へ移動させといてくれ。私は物とか直せる薬品とかをちょっと探して来る。」
「「りょーかい…」」
二人はやる気のない棒読みで応答し、裂け目を使いながら何処かへ転移させていく。
するとなんということでしょう。ぐちゃぐちゃになった空間が綺麗に一掃されていくではありませんか。
「あ、そうだ。叶夢!」
感心している最中にネヴァに呼ばれ、意識をネヴァの方へ向けた。
「ちょっとこっちに来てくれないか?ちょっとで良いから。」
(えー…)
先程の疲労が溜まっている中で少しは休ませて欲しいと思った。
だがネヴァは何度も手招きを繰り返し、断ろうにも断れなさそうな雰囲気なので渋々ネヴァの近くに行く。
「お前自身のことについて話したいんだ。」
「僕ですか?」
そう頷き、少し間が空く。何かそこまで溜めることがあるのだろうか。
「…自分を助けて欲しいから殺気をやけに全開で放っているんだろ?」
(……!)
俺は少し心臓が飛び跳ねた。急なネヴァの核心を突いた発言に俺は冷や汗が止まらなかった。
「え……いや………あ、何で急に……。」
「お前の行動とか見ると一瞬で分かる。今までだってやけに殺気を全開で放っていたな?」
「………」
「その反応はやっぱり図星だったのか。生前は母親に対して強い憎しみを抱いていたが、今まで周りに言っても誰も寄り添ってくれなかった。だからじげんの神や私達に本心を読んでくれる奴等に助けを求めていたんだろう?心を読める私達にわざと自分を心配してくれるように。」
「いや、それは……どうなのか……自分でも……分からないです。」
自分がそんな碌でもなく、情けない人間だと失望させないために、せめてもの抵抗としてしどろもどろになりながら有耶無耶な解答をした。相手は心すら読めるというのに。
それをネヴァは聞いて小さくため息を吐いた後に告げる。
「本心を言え。誰でも良いから助けて欲しかった。そこにじげんの神や私達を見て希望になった。だけどその気持ちの伝え方を忘れてしまったお前がどうすれば良いか分からずに、自分の気持ちを理解して欲しいが為に必死にアピールしていたんだろ?」
この人に少し恐怖を抱いてしまった。全て事細かく俺の内心を当てる。
心の中は覗かないと言っていたのに約束を破ったのか?
この正確性には流石に疑ってしまい思わず声が漏れてしまう。
「何で……分かるんですか…?。」
「こっちはこう見えて色んな奴等と関わりながら生きてきた身だ。お前みたいに抱え込んでいる奴なんて幾らでも居た。だから心の中を見なくても分かる。」
「…………」
「……嘘だと思うんならそれで構わない。お前に対して、心を読んでいないという証拠を出すことはできないからな。」
俺には嘘を吐いている可能性もあったとは思ったが、ここまで潔白とした態度を取っているネヴァには疑いの目すら向けるのも失礼だと思ってしまった。
「凄い……ですね。ネヴァさん……心を読まずしてもそこまで俺の心理を見抜くとは……恐縮です。すいません………こんな我儘で…」
ネヴァはこんな我儘な自分にも、真摯に俺の目を見て聞いている。
「…別に大したことじゃ無い。それに私達はお前がそんな奴だからといって、そう簡単に失望しない。それもお前の一面だと受け入れてる。ラヴァナやマサルだって、ラルバだってそうだ。」
そう言って俺みたいな奴にも隔たり無く接してくれる。
この人のような寛容さは一生懸けても俺には手に入れることは出来ない。
俺だったら俺と瓜二つな奴がいたらすぐに拒絶してしまうだろうな。
「はは……色んな意味で敵いませんよ…あなた達には。」
率直な感想しか出てこなかったが、これは偽りの無い自分の本心である。それほどまでにこの人の凄みというものには驚かされる。能力だけじゃなく、総体的に強く形成されているのだと思った。
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