第1神話 神③
「…………は?」
俺は男の解答に思わず素っ頓狂な声がでてしまった。
それと同時にコイツに対する憎悪と、怒りが少しずつ込み上がってくるのを感じた。
確かに「神」という言葉を発したのだ。嘘の可能性もあったが、今までの話から推測するに、絶対有り得ないということはない。
俺はこの神の言葉が嘘であって欲しいと願うばかりだった。
「……分かった。僕を揶揄っているんでしょう?」
「……何ぃ?」
「さっきから口だけで、俺に次元を操る力なんて一回も見せてないじゃないですか。そんな力本当に操れるんなら証拠見せてくださいよ。ハハハ…」
俺はそれが本当に神かどうか調べるが為に、神に行動を促した。神はそれを聞いてため息混じりに喋る。
「はぁ〜……全くこれだから…最近の奴らは……少しは信じてくれよ。こちとら最近信仰してくれる人全くいねぇんだから。少しは神という存在をもっと敬いたまえ。」
皮肉を含めた言葉を俺に言い放ちながら、神を名乗る青髪の男性は、少し考え込む。
「じゃあ、こうしよう。あそこにブランコがあるだろ?俺が時空を操ってあそこまで瞬間移動してやろう。」
「え?それって――」
「じゃあいくぞ?」
俺が喋る前に遮られ、神を名乗る男は行動を起こした。
パリパリパリ!
すると瞬きをする間もなくガラスの割れるような音を出しながら、目の前からはあいつが消えていた。
即座にブランコのある方に顔の向きを変えると、ブランコに乗りながらドヤ顔を決めて座って漕いでいる姿が目に入った。
アイツにとってはふざけた雰囲気なんだろう。不快でしかない。
疑心暗鬼だった感情は一瞬にして打ち砕かれ、そして沸々と憎悪と怒りが湧いてきた。
こんな力を持っていて、散々助けを呼んでも無視して結局は何もせずに放置するだけで何もしない奴等がこの世で崇拝されていることを理解してしまい、今まで以上にない絶望感に襲われた。
しばらくすると神は俺の顔色を伺って、一瞬にして俺の目の前に戻ってきた。
「なぁなぁどうだ?散々あんなに俺のこと馬鹿にしておいて。これで信じたか?お?」
「………神ってことは分かったよ。」
「それはよかっーー」
「じゃあ、なんで人を助けない?お前の力を持ってすれば余裕だろ?」
神は急に話を遮られ、不思議そうな顔をする。
「え?急にどうしーー」
「お前なら救えるものがいっぱいあるはずだ!!なのに無視したよな!何もしてこなかったよな!おかげで、曖昧な存在のお前達を信じて変な宗教にハマった人達だっているんだぞ!?何とも思わないのか!!?」
感情はヒートアップしてもう歯止めが効かなくなってしまっている。ひたすらに早口で捲し立てる。
だが神は急に豹変した自分に対しても怖じ気付くことなく話を聞く。
「……んー、そんなこと言われてもなぁ…それに関しては曖昧なものを信じようとした奴等が悪いしなぁ……」
「何だと!?」
「そんな何もかも他人の所為に一々しないで欲しいぞ。なんでそう怒る?」
「だってお前等は祈れば人に慈愛をくれるだの!信仰すればエネルギーをくれるだの!!言われてるじゃないか!?」
俺は言い訳を並べ続ける。だがそれでも神は引き下がらない。
「お前な…どっかの訳わからん宗教の教えから聞いたんか知らんが、人間みたいに神だっていろんな奴がいるんだぜ?」
「そりゃ慈愛とかエネルギーをくれる神様だって無理してでもくれる神はこの無数の世界の何処かに居るだろうさ。だがみんながみんなそんな奴等じゃねぇ。中には救う気なんて無いやつも居るし、それぞれのやることが忙しくて簡単に助けに行けるわけじゃない。」
「………やることってなんだよ?大層な仕事でもあるのかよ?そう言うならじゃあなんでお前等は願えば救ってくれるっていう教えがたくさん広まってるんだよ!?」
「だから、そんなのはお前等人間の間でそういう勝手な認識が広まっただけだ。」
「……っ!」
俺は今まで助けてくれなかった悲しさと怒りで神に対しての訴えをする。
だがそれでも軽々と神は返し、俺はそれに返せなかった。
神はそんな俺の姿に呆れて、この淡い世界の空に目を向ける。
「哀れだねぇ……人間てのは。ここまで堕ちたかよ。腑抜けしかいねぇのか。」
「……何がだよ。」
神の言葉が全てに苛立ち、反射的に全てに噛みついてしまう。
「ん?何ってそんな盲信的な奴ばっかなのかと思ってな?甘えに甘えきった連中だねぇ。」
「…うるさい。」
あぁ、本当に…
「第一、神のことも詳細に知らないくせに、ただ凄い力があるからっていう外面しか見ずに、いざこういう場面になったら責めるなんて都合がいいにも程がある。」
「…うるせぇよ。」
「本当に心の弱い奴等ばかりだな。情けねぇ。」
この時、頭で何かが切れた。
「うるせぇよぉぉ!一々口出しやがって、分かってんだよ!そんなことはぁ!」
この時にはもう礼儀や自分の姿など気にする素振りすら無く、只々反射的に怒号を上げて神を問い詰めているだけの害悪に成り代わっていた。
「………わかってねぇだろ。反射的に言うな馬鹿。」
「〜〜〜〜!!!」
だがそんなことはお見通しなようで見下すように神は言う。俺はこのもどかしい怒りを吐き出そうと必死になる。
「クソぉ!なんでだ!なんでそこまで知らねぇ他人に煽るようなこと強く言えるんだよ!」
怒りの感情を、地面に向けて蹴った。勿論低次元に干渉できないため砂埃は立たなかった。
「…最初に心の中で散々俺の悪口を言ってた、お前が言うのか?愚か者が。」
「…そ、それは…!…〜〜!!」
ついには何も言い返せる言葉も見つからなくなり、もう言い返す気力は尽きてしまった。
「……一度頭冷やせ。」
神はそう言うが俺はその言葉を無視し、自分のことだけしか考えれなかった。
地面にへたり込み、俺は体育座りをして顔を下げる。
「もういい……放っておいてくれ。」
自暴自棄になり、自分のエゴを貫くためだけに勝手に懇願する姿はまさに滑稽そのものである。
だが神は
「…嫌だね。」
と、たった一言だけを残した。
「〜〜〜〜〜〜〜…!」
「なんでだよぉ…放っておいてくれるだけで良いのに……なんでそうやって否定するんだよぉ…」
声にならない声が口から曝け出てしまう。
結局は人を助けてくれない神に失望してしまい、ショックで立ち直れなくなっていた。
「………」
神は無言で俺に向かって顔色一つも変えなかった。
「何が放っておいてだ。本心も言えねぇ奴の言葉に何故耳を傾けなきゃならない?」
俺は言っている意味が分からなかった。
本心?何を……
「…自分を大切にせず、他人に勝手な自分の希望を懇願するような都合の良い奴になるのは違うぞ…?」
「ッ!!」
心を読んで俺の発言に対して指摘するように言う。迫真の威圧に俺はたじろぎ、何も言葉を発することができなかった。神は淡々と告げる。
「良いか?お前の本心に言い聞かせてやる。上っ面だけのバカみたいな希望を自己中心的に乱用するのは間違っている。」
「…………」
「お前の今、口から出てるのははただの自己満足なんだよ。そんなことしたって結局はなんの解決にもなりはしないんだ。」
この神の的を射た発言に反論なんて出来るはずがなかった。
「……一回本心と向き合え。未練とか後悔残したくないんなら、その本心を最後まで突き通せ。ぶらさない意思を持て。そうして見えたものこそが自分にあるべき真意だ。」
発せられた言葉は綺麗事にしか思えなかった。だが俺は何故かその言葉に強い意志が或るように感じた。少なくともその発言が嘘だとは到底思えずに、沈黙してしまう。
俺の感情は最早どうすればいいか、分からないぐらいにゴチャ混ぜになっている。
行き場のない感情を発散するために神に向けて、何かしらの発声をしようとしたその瞬間、
パリ...パリ...
突如謎の音が聞こえてきた。音のする方に目をやると、空間にガラスが割れたような空間ができていた。
「……は?なんだあれ?」
俺は素っ頓狂な声を上げ、
「なっ……!?なんで……」
神は唖然として声が出なくなっていた。
その裂け目は段々と拡張し、そこからこの世の生物とは思えないものが出てきた。
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