第1神話 神①
いつものように俺は目を覚ました。そう、なんの変哲もなくだ。
先刻の痛みと悪寒はなく、寧ろコンディション最高というぐらい体の調子が良い。
(まさか本当に転生したのか!?)
俺は疑念と好奇心を抱いて、すぐに体を起こした。
だが、目に映ったのはいつもと変わらない公園だった。ブランコとすべり台があり、砂場には子供達が忘れて帰ったプラスチック製の小さなバケツとスコップが心寂しく置かれている。
「は?転生した……のか?これは…ってあれ鉄パイプ?」
ふと山田が放り投げていた、血がついた鉄パイプが目に入った。
それを見た瞬間に俺は残念至極な気持ちで満たされる。
「えー…何だよ転生できてねえのかよ。やっとゴミみたいな世界から抜け出せたのに……異世界無双したかったなぁ……。」
そう簡単に思い通りに行かないことを痛感すると同時に幾つもの疑問が頭をよぎる。
「じゃあ何で俺は無傷なんだ?まだ夢の中とか?それか場所は同じでも実は違う世界とか?」
そう仮説を立て、頬を何度も抓りながら周りをウロウロしたり、何か能力を使えないかと思い、
「キング・ドランダル!!」
とか訳の分からない呪文(?)のようなものを迫真の声で言った。
結果は2つの意味で痛かった。
「あぁ…本当に何やってんだ俺…。」
この醜態を晒していることに居ても立っても居られなくなり、俺は周囲を限りなく見渡した。
「良かった。だれもいな――」
「いやいるからね?」
「ひぎゃああ!??」
突然背後から声が聞こえ、俺は心臓が飛び出そうになほど驚き、甲高い悲鳴を上げてしまった。後ろを振り返ると、いつの間にか1人の男がいた。先程は周囲を見渡してもいなかったのに音もなく、その男は平然と立っていた。
「さっきから何やってんの??なんて声掛けるべきか分からなかったじゃないかよ。」
「な、何ですか?ゆ、幽霊?」
た、確かに死んだはずだよな?なのになんで急に人が…
「ゆうれぇだぁ?はぁ…人間君。そういうのが居ると思ってるタイプかよ…オカルト信者なのか?」
若々しい青年の声で俺に質問を質問で返す。
別にオカルト信者という訳ではないことを否定したかったがそれよりも一つ気になる単語があった。
(に、人間くん?何だその言い方。お前だって人間……あ。)
そして男の全体像を改めてちゃんと見る。20代くらいだろうか。赤色のパーカーを着て、そのパーカーには「I'm a GOD GOD GOD GOD GOD GOD GOD.」と白く、ガタガタの文字の刺繍がバランス悪く入っていて胸元らへんにドクロのマークが入れられてある。恐らく自作だろう。
さらに紺色のカーゴパンツを履いており、黒髪に青メッシュが入っていて、黒色のヘッドホンを首に付けている。何とも一昔前の厨二くさくて痛い感がプンプン漂う。特にパーカー。
いつの間にか羞恥心よりも、自分はまだマシだとモチベーションが上がって自然と笑顔になり、謎の自信に満ち溢れた。
「………俺をそんなキラキラさせた目で見るな。あとお前にだけは痛いとか言われたくない……。」
「そ、そんなこと言ったって………ってあれ?」
「痛い」と口に出して言っていないのに、何故か伝わっていた。
「なんで……?」
この時異世界系やSFとかの能力についての知識を最大限に使って、ある1つの解を出した。
「え……?心を読んだ?」
信じ難いことだが、今こうして現実に一人の人間が起こしてしまった。
「え?あぁそうだよ?」
そう淡々とださい男は返してくる。俺の脳内は、情報量が多すぎて収拾がつかない。
あれかな?マジシャン?奇抜な格好してるし……テレビとか良く出演でもしてるのかな?
「……知らない他人の心が分かるマジシャンってなんだよ……どっちかっつーと胡散臭い占い師じゃないか?それに奇抜っていってもそこまで奇抜ではないだろ。」
そして俺の発言の全てに的確なツッコミを入れ……
「…ってまた心を読んだ!?」
「ん?あぁーすまん。色々説明しなきゃだな。説明すると長くなるんだが……まずはこの世界について話そう。」
この世界?なんだ?ついには厨二病が重症にでもなったのか?
けど嘘を吐いているようには見えないし……
(こいつは…いった……い)
そう考えるがそれを阻害するようにこいつの風貌が目に入る。
(…いや、ダサすぎだろ。やっぱ、これが格好いいとか思う年代なのかなぁこの年代って……田舎のドンキとかにめちゃくちゃいそうだな…)
俺はつい心の中でこの男性に対してのひたすら悪口を唱える。
(まさかドンキの駐車場で車に轢かれて死んで彷徨っている浮遊霊とか…?)
(…駄目だ、こんなこと考えても進まないな……)
何とか微かに心の中に居た天使が俺を現実に引き留めてくれた。
流石にずっとこれを気にしてたらノンストップで言っているだろう。
けじめをつけて改めて話し合おうと相手の顔を見返すと
「………」
(ん?なんで…?あ……)
俺は心を読まれることを意識せずに、心中で唱えてしまったことに気づいた。
俺は瞬時に口にだして謝る。
「ご、ごめんなさい!!軽々しく口走ってしまいました!!」
そう言って頭を下げるが、神の顔はまだ引き攣っている。
「い、い、いよーし、脆弱な脳みそ容量1
相当自分の厨二的な部分に触れたのが効いているようだった。自分で着ておきながらコンプレックスだったのか……
そして俺に苛立ちの表情を向けたとともに顔を下に向け
「いやはや全く……なんでこれが…かっこいいだろが…ださい訳…」
自作であろうTシャツをグイッと伸ばしてお互いの傷を舐め合うように見つめている。
……本当に効いてるなこれ。
「ださくないよなぁ……うんうん、そうだよな。」
彼自身にしか聞こえないTシャツの声と会話している。
本当にすみません。
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