第19話 謎の蕾の正体は?

 突如姿を現した魔猿の群れ。


 しかし、彼らは俺たちに攻撃をしてくる素振りを見せない。

 だからといって友好的な態度とも思えないんだよな。


 すべての謎を解く鍵はこの巨大な蕾にあると睨んでいるが……どうやらミリアはこいつの存在を知っているようだ。


「ミリア、知っていることがあるならすべて話してほしい」

「……本で読んだことがありますの」


 表情を強張らせつつ、ミリアは語り始めた。


「作物がよく育つ場所の近くには女神の住まいがある、と」

「女神の住まい?」

「豊穣を司る女神――その名はメーテ」


 豊穣の女神メーテ。

 

 ……聞いたことがないな。

 いや、これは単に俺の勉強不足だろう。他のみんなは「豊穣の女神メーテ!?」ってめちゃくちゃ驚いているから、それなりにメジャーな女神なのだろう。


 ていうか、本当にこの森が女神の住まいなのか?

 女神っていうくらいだから神殿みたいなところに住んでいるのだろうけど、そんなものはどこにも見当たらないし、仮に存在していたとするならリーノ村の人たちが気づいていてもおかしくはない。


 でも、それがないということは――って、待てよ。


「もしかして……」


 俺の視線はあの巨大な蕾へと向けられる。


「あれが女神さまの住まい?」

「わたくしはそう睨んでおりますわ」


 いやいやいやいや。

 確かに豊穣を司る女神がいそうって気はするけど、いくらなんでもそれはないだろう。


 ……けど、なんだかあの蕾が神々しく見えてきた。

 まさかの本当に女神が入っているのか?


「えぇっと……ノックして入った方がいいかな?」

「そういう問題はないと思いますが?」

 

 冷静なジェニーのツッコミでハッと我に返る。

 やっぱりあれが豊穣の女神の住まいというのは無理があるよな。そもそも本当に豊穣の女神とやらがいるのなら、どうしてこのローエン地方は不作になってしまったんだ?


「ひょっとして……」


 なんらかの理由で女神の機嫌を損ねてしまったんじゃないか?

 あり得ない話じゃないぞ。

 なんてったって、あの悪名高いソリス・アースロードだからな。


 俺が転生してくる前に何かやらかしたんじゃないのか?

 記憶には残っていないけど、それはあくまでも本人が気づいていないだけで、無意識のうちになにやらとんでないことをしでかしてしまったのではないか。


 不安にかられる中、ここで蕾に変化が訪れる。


「ソリス様! 蕾が開こうとしています!」


 ローチの叫び声が森中にこだまする。

 こちらの困惑を尻目に、新たな成長ステップへと移ろうとする巨大蕾。

 果たして、あの中には本当に豊穣の女神メーテがいるのだろうか。

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