第11話 これからのこと

 俺の婚約者である伯爵家の御令嬢と、その御令嬢がずぶ濡れになるのもいとわず川へ飛び込んで村の子どもを助けた――というなんとも情報量が多すぎる話はあっという間にリーノ村中に知れ渡ることとなった。


 やっぱり村の人たちにとっては婚約者って部分がめちゃくちゃ気になるだろうな。


 ゼリオル村長の他、イノシシ狩りの時に行動をともにしたノアンやハーヴェイからもいろいろと質問されたが、とりあえずあとでしっかり説明をするとだけ話してミリアを屋敷へと案内する。


 ……説明といっても、俺自身がまだ彼女がどんな人間であるのか、まったく知らないんだよなぁ。

 自分の服がダメになるのも構わず子どもを助けるために川へ飛び込めるという点では、とても優しいし勇敢であるとも言える。


 ただそうなると、どうしてこんないい子が俺との婚約を認めたのかっていうのが気になるんだよな。


 厳密に言うと、婚約を決めたのは彼女の父親か。


 伯爵家であるグリンハーツ家は、なぜミリアのようないい子を貴族でもないアースロード家の長男と婚約させたんだ?


 うちとしては伯爵家と身内の関係になれるっていう超メリットがあるのだが、向こうにはまったくそれがないように思える。


 間違いなく政略結婚なんだろうけど、相手の企みが見えてこないという妙な不気味さがあったのだ。


 それさえなかったら、彼女は文句なく最高の相手と言えるんだけどなぁ。


 

 場所をアースロード家の屋敷へ移し、改めて自己紹介を始める。

 

 さすがに相手は伯爵家の御令嬢なのでかしこまった挨拶を――と、思ったのだが、それは本人からあっさりと拒否される。


 それよりも彼女は屋敷の窓から見える広大な畑に関心があるようだった。


「凄く広い……あれすべて先ほど女の子を送っていったリーノ村で管理を?」

「そうなんだ」

「事前に聞いたお話だと収穫量が乏しいとのことでしたが……村の様子を見る限り、あまり悲観されているわけではないようですわね」

「今はみんなで収穫量アップのために試行錯誤を繰り返している最中なんだ。その成果が少しずつ出始めているというのも大きいかな」

「なるほど」


 窓の外を眺めながら顎に手を添え、何やらじっくりと考え込むミリア。

 しばらくすると、ようやくこちらへと振り向き、


「わたくしも農業をやってみたいですわ!」

 

 高らかにそう宣言する。

 ……この子はこういうノリの子なのかな?

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