第9話 思わぬ再会

 ドボン、という音とともに小さな水柱が川の真ん中に発生した。


「だ、誰だ!? 村の者か!?」

「ミリア様だ……ミリア様ぁ!」

「あっ! ソリス様!」


 装備を外してパンツ一丁となっていたローチには悪いが、俺は上着を脱ぎ捨てて彼女の顔を見た瞬間に思わず川へ飛び込んでいた。


 なぜだろう。

 ソリスの過去にはミリアに関する記憶なんてなかった。

 それなのに……どうして?


 ――ダメだ。

 今はそれよりもふたりを助けることに専念しなくては。


 激流に抗いながら突き進み、なんとかふたりのもとへ。

 そこで俺はギョッと我が目を疑った。


 あの時は太陽を背にしていたため、眩しくてよく確認できなかったのだが――なんとミリアは下着姿だった。


 恐らく最初はドレスを着ていたのだろう。

 しかし、子どもを助けるにはそれが邪魔だったので脱ぎ捨てたのだ。


 名前どころか面識すらない村の子どもを助けるためにここまでするなんて……底抜けに心優しく、それでいて勇敢な性格をしているのだろう。


「ミリア様!」

「っ! ソ、ソリス!」


 なんとか伸ばした俺の手をしっかりと掴んだミリア様。

 ――って、これからどうやって岸へ戻る?

 彼女は子どもを抱えているので自由に動けないし、俺は俺で激流に抗うだけで精一杯という状況だった。


 その時、ローチの叫び声が聞こえた。


「ソリス様! これに掴まってください!」


 彼は俺が農作業の際に使っていて、飛び込む際に投げ捨てたロープを放り投げた。

 それをしっかり掴むと、体が流れに逆らってピタッと止まった。


「ぬおおおおおおおおおおっ!」


 ローチが雄叫びをあげながら踏ん張り、少しずつ俺たちを岸へと引っ張る。

 な、なんて怪力だ。


「死ぬ気で頑張ってください、ローチさん! 何のために毎日飽きもせず筋トレをしているんですか! その鍛えあげた筋肉は飾りですか!」

「いいからジェニーも手伝え!」

「あっ、そ、そうですね!」


 そんなやりとりがありつつ、なんとか三人とも無事に岸へたどり着いた。

 

「大丈夫ですか、ミリア様」

「は、はい……問題ありませんわ」


 俺は脱いだ上着を彼女にかぶせ、状態を確認。

 それにしても……まさかの再会になったな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る