　明日に備えてソリスがベッドへ入った頃。

　屋敷の一室に集まったのはアースロード家専属の魔法使いジェニーと護衛騎士隊リーダーのローチ、そして執事のスミゲルの三人。

　彼らは時折こうして集まり、仕事の愚痴だったり未来へ向けた展望を語り合っている。

そんな三人は領地運営を任されているソリスの三大側近として彼を見守り続けてきたわけだが、そのあまりの非道ぶりに日々頭を悩ませていた。

　ところが、今日一日でその認識はひっくり返ってしまう。

「昼間のソリス様の態度……どう思われますか？」

　切り出したのはジェニーだった。

「どうたって……あのバカデカいイノシシに跳ね飛ばされて正気じゃなくなったって印象しか出てこねぇよ」

　ため息交じりにローチが言うと、それにスミゲルが続いた。

「いえ、ローチ殿の部下への気遣いや助けた女の子への対応を見る限り、あちらの方が正気と言うべきでしょうな。今までが異常だったのです」

「バッサリ言いますねぇ、スミゲルさん。否定はしませんけど」

「ですが、以前のソリス様と比較すれば今の方がずっと良いと思われているのではないですかな、ジェニー殿」

「そりゃそうですけど……」

　これまで三人は何度もソリスの悪行に悩まされ続けてきた。

　一時は本気で退職し、別の道を歩もうかと思ったこともある。

　だが、今日のソリスの言動が続くようであれば、このローエン地方での仕事は続けていきたいと願っている。

　三人にとっても、この地はとても過ごしやすくてとても快適だった。

　領民であるリーノ村の人々は穏やかで優しい人が多く、領主さえまともな感覚ならばもっと農作物の収穫量も増えて豊かな生活が送れるはずだと思っていたのだ。

　これまでもそれとなくソリスへ忠告をしてきたが、聞き入れられたことはない。

　なんとかしてみんなに安心した生活をしてもらいたい――そう思っていた矢先での出来事だけに、なんだか都合がよすぎやしないかと懐疑的な見方もあった。

　それでも、彼らが出した結論は――

「もうしばらく様子を見ましょう」

　スミゲルの言葉に、ジェニーとローチは静かに頷いた。

「この状態が続くようでしたら、すぐに結論を出す必要もありませんしね」

「ジェニーの診察の結果、体に異常はないんだからこのままでも大丈夫だろう」

「むしろ現状がいつまでも続いてくれることを祈りましょう」

「「賛成！」」

　その後、ローチが持ち込んだ果実酒で乾杯をし、今日の夜会はお開きとなる。

　ソリスが現代日本で暮らしていた前世の記憶を取り戻していると知らない三人は、このあとも生まれ変わった彼の行動に驚かされることになるのだった。

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