第10話 恋に悩む王太子
アーサーは分かりやすく落ち込んでいた。
森でのプロポーズに失敗した後、恥をかかされたと怒り狂う国王と宰相に一転、結婚を反対されているのだ。
せっかくのチャンスをふいにしただけではない。
こうなったら魔女を捕まえてもっと酷い魔法契約を結ぶと国王たちは息巻いている。
あまりの展開に頭が痛い。
アーサーは執務室の椅子に座り、机の上に肘をついて頭を抱えた。
そもそも理不尽な魔法契約を結んだせいで、ボニータに逃げられたのではなかったのか?
アーサーは国王たちへの不信感を募らせていたが、本人たちにその自覚はなさそうだ。
彼らには彼らの言い分があるらしい。
だからといって、ボニータを説得できる材料もなければアテもないのだ。
それならば自分とボニータの魔法契約を認めたほうがマシではないのか。
アーサーはそう思ったが、肝心のボニータが受け入れてくれないなら意味はない。
堂々巡りだ。
アーサーはボニータと共に生きたいと思っているが、どうしても過去が足を引っ張ってくる。
(あの時……私が彼女と魔法契約を結んでいたら……)
後悔したところで時間は戻らない。
そこにこだわらず先のことを見据えた提案を……と考えてみるのだが、結局は元に戻る。
十年前に魔法契約を結んだ相手はアーサーではなかった。
この動かせない事実が重たい。
(私は引くべきでなかった。幼さなど理由にならない。十年前のあの日、ボニータの婚約者になるべきは私だったんだ)
どうしてあの森に連れていかれたのか。
アーサーがボニータの住む森を訪れた時、彼自身は大人たちの思惑を知らなかった。
訪問先にいた痩せっぽちで小さな女の子に、アーサーは恋をした。
親しい人を亡くして悲しんでいた彼女に寄り添った。
ずっと一緒にいたいと思った。
だから王都においでと彼女を誘ったのだ。
それが間違いだった。
アーサーと魔法契約による婚約を結ぶと思わせて弟と婚約をさせるつもりだなんて、知らなかったのだ。
(魔法契約の対価が配偶者だというのなら、私が喜んでこの身を差し出したのに)
師を亡くした小さな女の子は、アーサーが寄り添ったことでみるみる元気を取り戻していった。
紫のわたあめみたいな髪と、キラキラ輝く宝石のような紫の瞳を持った可愛いボニータ。
背が低くて痩せっぽちで、それでいて生命力溢れ、軽やかに森を駆け回る森の魔女。
小さな体いっぱいに詰まった生命力と好奇心が、アーサーをワクワクさせた。
彼女となら、楽しく一生を過ごせるだろう。
なのに――――
「なぜこうなった?」
「おやおや、わが親友のアーサー君は恋にでもお悩みかい?」
「わっ、びっくりした」
アーサーは期待していなかった独り言への返事が突然響いたことに驚き、椅子の上で跳ねるように姿勢を正して声のした方を振り返った。
そこには黒い瞳のはまった目を楽しそうに歪めている、親友で隣国の王太子、セシリオの姿があった。
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