第7話
「よく調べもせずにいたわたしも悪いので……。ですが家族のためになんとかしてがんばりたいです。弟には夢を追いかけて王立学園に通ってほしい。弟たちにもお腹いっぱいご飯を食べさせたいです」
「……!」
「このまま何もしないまま没落するのは嫌ですから!」
ディアンヌはここで諦めるつもりはなかった。
節約すれば、どうにかあと二日ほど王都に滞在できる。
(その間に働き口を探せないかしら。他のパーティーに出るよりも、どこか侍女として働いた方が現実的だわ。リュドヴィック様は高貴な方みたいだし紹介してもらえそう。図々しいかしら……でもなりふり構っていられないもの!)
ディアンヌは覚悟を決めて、リュドヴィックに誰か紹介してもらおうと決めた。
「図々しいのは百も承知ですが、働き口を紹介してもらえないでしょうか?」
「君は婚約者を探しているのではないのか?」
「家族のために、今のわたしができることをやりたいんです!」
ディアンヌはリュドヴィックに迫りながら、まっすぐにみつめていた。
この際、結婚相手を見繕うのは難しいとわかってしまった。
物語のように王子様に身染められることなどありはしない。
自分で欲しいものに手を伸ばして掴み取らなければならないのだ。
ディアンヌのあまりの勢いにリュドヴィックは一歩後ろに下がる。
そしてディアンヌも一歩前に進んでいくと、足が痛んで体勢を崩してしまう。
「……っ!?」
傾いた体を支えるようにリュドヴィックの腕が伸びる。
彼の逞しい腕に支えられながら、ディアンヌは動きを止めた。
上目遣いで彼を見つめながら、申し訳なさから頭を下げた時だった。
「リュド、リュド……!」
聞き覚えのある可愛らしい声にディアンヌは声がする方を見た時だった。
ふわふわの明るい銀色の髪と、大きく見開かれる水色の瞳。
先ほど、迷子だったピーターの姿があった。
「見つけたっ……!」
ピーターはリュドヴィックの腹部に突撃するように抱きついた。
慌てるようにエヴァが追いかけてくる。
「ピーター……エヴァと待っていろと言ったろう?」
「だって寂しかったんだもん。リュドに会いたくて……」
涙目になるピーターにリュドヴィックは重たいため息を吐いた。
リュドヴィックの固い表情にピーターはビクリと肩を震わせて怯えるように身を縮ませてしまう。
ディアンヌに気がついたピーターは驚いていた。
するとピーターはディアンヌにピタリとくっつくと、思わぬことを口にする。
「ぼく、ディアンヌと一緒にいたい」
「え……?」
「リュド、ディアンヌと結婚してよ! ディアンヌにお母様になってほしいっ」
ピーターの言葉にディアンヌは驚愕していた。
(お母様になってほしいって……わたしが!?)
ディアンヌがリュドヴィックを見ると驚いているのか、目が大きく見開かれている。
初めて見るリュドヴィックの表情の変化。
もしかしてピーターはリュドヴィックの子供かもしれないと考えてみたものの、リュドと名前を呼んでいることが気になってしまう。
「……ダメだ」
「どうして!? リュドはそればっかり! ボク、さみしいよ」
「エヴァがいるだろう?」
「お母様がいい! リュドはそばにいてくれないし……うわあぁぁん!」
ピーターはそう言って泣き出してしまった。
リュドヴィックは額を押さえて再びため息を吐いている。
眉間に深々と刻まれているシワ。
ディアンヌの胸元で大号泣するピーター。
ドレスは涙と鼻水ですごいことになっていた。
ディアンヌはピーターの背を撫でながら考えていた。
リュドヴィックとピーターの事情は詳しくはわからないが、ピーターは寂しくて仕方ないのだろう。
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