第3話
パーティー会場を見上げながら、ディアンヌは呆然としていた。
宿で着替えてきたのだが、やはり髪も下ろすだけ、メイクもほとんどしておらず、アクセサリーもないからか完全にドレスも着られている状態だった。
何より履き慣れないハイヒールで歩きづらい。
ディアンヌはよたよたと階段を上がっていくのだが、注目を集めていた。
もちろんいい意味ではなく、悪い意味で。
(場違いなのはわかっているけど、家族のためにがんばらないと……!)
なんとか会場に辿り着いたものの、何をすればいいかわからずに緊張していた。
ディアンヌは社交界デビューも済ませておらず、パーティーにも出席したことないため、やることもわからない。
コソコソと何かを話されてはいるが、いい意味ではないことだけはわかる。
仕方なく壁際に移動して周囲の様子を眺めていた。
(どう見たって場違いよね。でも家族のためにがんばらないと……!)
親しげに話す人たち。笑い声が聞こえるような気がした。
結婚相手を探しにきたはずなのに、今のところ何もできないままだ。
心細さや緊張、不安があり思考がマイナスに傾いていく。
そんな自分を叱咤するために首を横に振る。
ディアンヌが一歩踏み出そうとした時だった。
ゴチンと、頭に激しい痛みと共に重たい音が聞こえた。
どうやらハイヒールでドレスの裾を踏んでしまい、倒れた拍子に頭をぶつけてしまったようだ。
クラリと視界が歪んで、そのままディアンヌは意識を手放した。
──真っ暗な景色の中
コンクリートでできた建物が聳え立っている。
(ここは……確か日本だわ。あれはコンビニで、自動車、信号に)
知らない景色のはずなのに、スラスラと名前が出てくる。
そのことを不思議に思っていると、自分が日本に住んでいた記憶が蘇ってくる。
(そうだわ。わたしは日本で過ごした記憶があって……!)
専門学校の帰り道、新作のスイーツを大量に購入した帰り道に複数のバイクの音が聞こえて目の前が明るくなった瞬間……。
どうやら頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出したようだ。
ディアンヌと同じ五人姉弟の長女で、貧乏だったのも同じである。
高校三年間、ずっとアルバイトをして貯めたお金で専門学校に通えたのだ。
夢半ばでバイクに轢かれて生を終えてしまった。
「──そんなのあんまりだわ!」
ディアンヌはそう叫びながら勢いよく体を起こした。
アンとしての記憶を思い出した反動なのか頭がズキズキと痛んだ。
医師がディアンヌに気づいたのか心配そうに顔を出す。
どうやら頭をぶつけて意識を失ったディアンヌを医務室まで運んでくれたようだ。
ディアンヌは裾が長くタイトなドレスを引き上げながら起き上がる。
(急がないと……パーティーが終わってしまうわ!)
追い詰められた状況ではあるが、どんな時も諦めないで自分の力で乗り越えてきた。
諦めるにはまだ早い。
ディアンヌは医師に大丈夫だと断りを入れてから、身なりを直すために鏡を探す。
壁にかけられている鏡を見つけて、ハイヒールを履いた足を進めていく。
(こんな歩きにくい靴や似合わないドレスを貸すなんて嫌がらせよ……信じられない!)
前世との記憶が混ざったからわかるが、シャーリーは明らかにディアンヌを馬鹿にしていた。
(ディアンヌはいい子すぎるわ。まだシャーリーを友達だと思ってる。それにずっとわたしのことを下に見ていたわ)
もう彼女には関わらない方がいいだろう。
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