第5章 神殿のダンジョン

24話

 朝の光がキッチンに差し込み、葵とセリナが朝食を囲んでいた。セリナはまだ眠たそうな目をしてトーストをかじり、葵はスマホをいじりながらカリカリのベーコンを食べていた。


「ねえ、見てみてセリナちゃん! 登録者数が60万人を超えたんだよ!」


 葵は興奮した様子で身を乗り出してセリナにスマホを見せた。途方もない数に眠たそうだったセリナの目が大きく見開く。


「す、すごいですね! おめでとうございます!」


「これもセリナちゃんのおかげだよ。ありがとね!」


 葵は満面の笑みを浮かべると、セリナの手を握りしめて、心の底から感謝の気持ちを伝えた。


「ちなみに今日は何をしますか?」


 セリナがコーヒーを一口すすりながら尋ねると、葵はスマホの予定帳を眺めながら小さく唸った。


「うーん、動画の編集をしなきゃだけど、それ以外は自由かな?」


「じゃあ、あとで一緒に買い物に行きませんか? 以前からショッピングモールという場所に行ってみたくて」


「いいね! じゃあ、早く作業を終わらせるね」


 葵は朝食を食べ終えると、パソコンを開いて作業を始めた。すると、スマホがピコーンと音を立てた。通知を確認すると魔王からだった。


「もしかして魔王からですか?」


「正解。えっと内容は……『やぁ、葵、セリナ。前回のローストビーフは本当にうまかったぞ。視聴者たちも大喜びだった。さて、今回もコラボ配信をしないか? 神殿のダンジョンにいるからいつでも来い。待っているぞ』だって」


「コラボ配信ですか? 楽しいそうですね」


「うん! ショッピングモールはまた今度でもいいかな?」


「はい、大丈夫ですよ。早速行きましょう!」


 葵とセリナはいつも通り機材を持って身支度を整えると、車に乗り込んで神殿のダンジョンに向かった。




* * *


「ランベルトよ、チャンネル登録している配下は何人にる?」


「現在58万人まで集まりました。ちなみに勇者たちは60万人います……」


「なんだと、負けているのか⁉︎」


 魔王は腕を組んで悔しそうに唸り声を漏らす。


「ところで、バルケリオス様、計画はちゃんと理解していただけましたか?」


「あぁ、もちろんだ。あいつらにドッキリを仕掛けるのだろ?」


 神殿のダンジョンの前で魔王とランベルトは密談をしながら葵たちが来るのを待っていた。


「ええ、その通りです。彼らが来る前に私たちが先にダンジョンに入って準備を整えなければいけません。これが成功すればきっと多くの人がチャンネル登録をするでしょう」


 ランベルトはそう言いながらも頭の中では別のことを考えていた。もうすでに勇者たちを殺すための準備はできている。あとは奴らが来るだけだ。


「葵とセリナが驚く顔が楽しみだ。ランベルトよ。早速行くぞ!」


「はい!」


 魔王とランベルトは道中の雑魚モンスターを蹴散らしながら進み、ボス部屋のすぐ近くにある大広間に向かった。


「ここで待ち伏せをして奴らを驚かすんだな?」


「その通りです」


「それで奴らが来るのはいつ頃なんだ?」


「計画では1時間くらいでここに到着するはずです。それまでにバルケリオス様は身を隠す場所と、どうやって驚かせるかを考えていて下さい。私は別の準備をしてきます」


 ランベルトは魔王から離れると、部屋の奥に向かい闇に向かって話しかけた。


「いいかお前たち、私が合図をしたら一斉に襲い掛かれ。勇者の首を取った者には報酬を与える」


 闇に潜むドラゴンや狼たちはギロリと目を光らせ、ギシギシと歯ぎしりをしながら、獲物が来るのを待ち続けた。

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