11話

「次はスイカ割りで勝負だ!」


 魔王が指を鳴らすと、またしても地面からスライムが現れた。今度は頭にスイカを乗せている。


「ルールは簡単、目隠しをして相方の指示を受けながら移動して叩く。以上だ。まずは見本を見せてやろう」


 魔王は目隠しをすると、軽く肩を回して木の棒を素振りした。


「ランベルト、任せたぞ」


「お任せ下さい」


 魔王は本物の剣を握るように構えると、ランベルトの指示に従って移動した。


「もう少し前です。そのまま右に向かって……」


 スイカを頭に抱えたスライムは体を震わせながら怯えていた。少しだけ可哀想に見える。


「そこです!」


 ランベルトがトドメの宣言をすると同時に、葵はスライムの『目?』を見つめながら叫んだ。


「逃げてスライムちゃん!」


 スライムは葵の言葉を理解したのか、ぴょんっと跳ねて木の棒をかわした。危ない、危ない。あのままだとまた粉砕してしまうところだった……


「おい、なぜ邪魔をする!」


 ランベルトは怒りに燃える目で睨んだが、葵は冷静な表情を崩さなかった。


「えっ、いや、だってルールでは相手チームが指示を出したらダメって言っていないでしょ?」



〈確かに言っていないな〉

〈そういえばそうだったな(笑〉

〈お互いに屁理屈の言い合いになってないか(笑〉

〈まぁ、面白ければいいか〉

〈スイカ割りとかもう何年もしてないな~〉

〈まぁ、ルール違反ではないか?〉



 ランベルトは納得していない様子だが、魔王は豪快に笑いながら彼の肩に手を置いた。


「まぁ、まぁ、いいではないか。普通に終わったら動画がつまらないからな」


「しかし、バルケリオス様……」


「次はお前達の番だ。さぁ、やってみろ!」


 セリナは魔王から木の棒を受け取ると、軽く息を整えて構えた。


「セリナちゃん、スライムちゃんには被害が出ない様に出来ないかな?」


「任せて下さい、力加減をしますね」


 セリナは葵の思いを汲み取ると、スイカに向かって軽く木の棒を振り下ろした。あと数センチで当たりそうだったが、すかさず魔王が指示を出した。


「スライムたち、とにかく逃げろ!」


 スライムはとろとろの体を揺らしながら頷くと、一目散に逃げて行った。


「あっ、逃げた! セリナちゃん、ストップ! もう少し右。今度は左、あっ、後ろに回り込まれたよ!」


 セリナは見えない敵に困惑しながらも、葵の指示を聞きながら標的を追いかけた。


「クックック、どうした? その程度か?」


 魔王は余裕の笑みを浮かべながら喉をならす。葵が指示を出してもスライムの逃げ足が早いせいで間に合わない……


「ねえ、セリナちゃん。これを使って!」


 葵は相棒の自撮り棒をセリナに手渡した。収縮自在の自撮り棒ならいけるかもしれない!


「セリナちゃん、5メートル先の2時の方向にいるよ!」


「分かりました。任せて下さい!」


 走っていても追いつけない。でもこれなら走る必要がない。自撮り棒は如意棒のように伸びると、スライムの頭上に乗ったスイカを見事叩き割った。



〈すげぇー!!〉

〈2人とも息ぴったりだね!〉

〈ナイス連携!〉

〈スライムも無事でよかった~〉

〈俺の知ってるスイカ割りじゃないな(笑〉

〈スイカ割りとは一体(哲学〉



「やった~ 私たちの勝ちだよ!」


「やりましたね葵さん!」


 私たちはハイタッチをするとお互いに褒めあった。スイカは綺麗に4頭分に別れ、スライムちゃんも無事だった。


「ねぇ、せっかくだからみんなで食べよ」


「えっ、魔王と一緒にですか?」


 セリナは少し嫌そうにしていたけど、スイカを頬張るとたちまち笑顔が戻った。


「これ美味しいです! 甘くてジューシーでいくらでも食べれそうです!」


「うん、やっぱり夏といえばこれだよね!」


 葵もかぶりつくと、器用にタネだけ飛ばした。セリナも見様見真似でやってみるが、うまく飛ばずに、ポロポロと地面に落ちる。


「ふむ、これはなかなか上手いな」


「バルケリオス様、どうやらこの塩をつけるとより甘くなるそうです」


 魔王とランベルトも美味しそうに食べながら感想を言い合う。以前は敵だったけど、この瞬間だけは平和な時間が過ぎていく。ふと視線を感じて葵が顔をあげると、スライムちゃんも食べたそうな目で見ていた。


「えっと……食べる?」


 葵がスイカを小さく切って渡すと、スライムは体を使ってムシャムシャと食べ始めた。プルプルの体をフルフルさせながら食べているのが可愛らしい。


「では、腹ごしらえも済んだことだし、最後の勝負といこうか! あの孤島に向かって泳いで、最初に到着した者が勝利だ。今回は魔力やその他、妨害行為は禁止とする!」


 魔王は軽く準備運動をすると、ゴーグルをかけた。


「私、泳ぐの結構得意なんだよね。負けないよ!」


 葵もゴーグルをかけると、軽く腕を伸ばして位置についた。


「セリナちゃん、絶対に勝とうね!」


「はっ、はい、そうですね……」


 全員が定位置についてスタートの合図を待つ中、セリナはどこか浮かない顔をしながら孤島を見つめていた。

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