第45話 昭和のスーパースターVS令和のスーパースター

 木曜日の夕方、俺は昭和のスーパースターさんの作品を読むため、パソコンの電源を入れた。

 今回のテーマ『スーパー』に対し、先頭のアラー・カーンさんさんは、スーパーの店長を主人公とした設定にし、二番手の夢見がち代さんは、先日近所にオープンしたスーパーのせいで、客が減った展開にしていた。

 さて、この続きを昭和のスーパースターさんはどのように書いているのか。

 程なくしてパソコンが立ち上がると、俺は早速彼の作品に目を向けた。


【スーパー『昭和』の店長、加藤健一は、先月近所にオープンしたスーパー『令和』に固定客を取られ、頭を抱えていた。


(このままじゃ、店が潰れるのは時間の問題だ。早急になんとかしないと)


 加藤は危機感を持ちながらも、どうすればいいかまったく分からず、途方に暮れていた。

 そんな加藤を見て、従業員の田中が「店長、今こそ店長らしいとろを見せてくださいよ」と発破をかけると、彼は「そうだな。なんたって俺は、昭和のスーパースターだからな。はははっ!」と馬鹿笑いしながら、意味不明なことを言った。


「…………」


 呆然としている田中に、加藤は問いかける。


「なんだよ、その顔は? もしかして、俺の言ってることが分からないのか?」


「……ええ」


「ちっ、しょうがねえな。じゃあ、今から説明してやるよ。ここは『昭和』っていう名前のスーパーだろ? その中でトップなのは誰だ?」


「もちろん店長です」


「だろ? だから俺は、昭和のスーパースターなんだよ」


「……なるほど。で、『令和』に対抗するために、何か考えてるんですか?」


「いや。昨日、スーパー『平成』の店長とも話したんだけど、いい案がまったく思い浮かばないんだよ」


「じゃあ、このまま店が潰れるまで、何もしないつもりですか?」


「そうは言ってないだろ。何かいい案があれば、すぐにでも実行するさ」


「実は、そのことで、僕に考えがあるんですけど、今から発表してもいいですか?」


「なんだと? じゃあ採用するかどうかは後で決めるから、とりあえず言ってみろ」


「とりあえず、全商品を三割引きにするんです。すると、客がどっと押し寄せてきますよね? その時に、『これからも時々安売りをしますが、それはいつか分かりません。これからはサプライズで割引をします』と、客に宣言するんです。そしたら、客もいつ割引するか分からないから、店に通い続けると思うんです」


 田中の意見に、加藤はしばし腕組みをして考えていたが、やがておもむろに口を開いた。


「それ、どのくらいの頻度で割引しようと思ってるんだ?」


「そうですね。まあ週一くらいがいいんじゃないですかね」


「そんな頻繁に割引してたら、店が持たないよ!」


「じゃあ、二週間に一回でいいんじゃないですか?」


「それでも多い! まあ精々、月に一回くらいだな」


「それじゃ少なすぎて、誰も店に来ないですよ」


「君がなんと言おうと、できないものはできない。それより、他に何かいい案はないのか?」


「ありませんよ! ていうか、このスーパーは店長のものなんだから、店長が考えてくださいよ!」


 結局、二人ともいい案が浮かばず、もはや店の存続は風前の灯火となった。】



(なんじゃ、こりゃあ! この人、なんで自分のユーザーネームを主人公のキャッチコピーにしてるんだ? ……前は真面目に書いてたから、今回もそうだと思ってたのに、また元に戻ってるじゃないか)


 俺はそんなことを思いながら、続きを書いた。


【風前の灯火となった『昭和』に、スーパー『令和』の店長、清水が訪れた。


「おや? さっき訪れた『平成』もそうでしたけど、ここも閑古鳥が鳴いてますね。この様子だと、両店とも潰れるのは時間の問題ですね。はははっ!」


 馬鹿笑いしながら嫌味を言う清水に、加藤が食って掛かった。


「あまりいい気になるなよ。俺が本気になったら、お前なんかに負けるわけないんだからな」


「ほう。じゃあ、その本気とやらを見せてくださいよ」


「そう簡単に見せはしない。俺が本気になるのは、ここぞという時だけだ」


「今がその時じゃないんですか?」


「違う。俺にはまだ余力があるからな」


「余力?」


「ああ。俺にはまだから元気が残ってるってことさ。なんたって俺は、昭和のスーパースターだからな。はははっ!」


「空元気って……それ、自分で言っちゃ、ダメでしょ」


「いいんだよ。それよりお前、何しに来たんだ?」


「ああ、あなたがおかしなこと言うから、すっかり忘れてましたよ。実は私、この店と『平成』を救うために、とっておきのアイデアを授けようと思ってきたんですよ。なんたって私は、令和のスーパースターですからね。はははっ!」


「……で、そのアイデアっていうのは、なんだ?」


「私、来月から毎週水曜日を店の定休日にしようと思ってるんです。で、その時にあなたたちはここぞとばかり商品を仕入れて、売りまくるんです。そしたら両店とも、なんとか生き残れるんじゃないかと思いましてね。どうです、中々いいアイデアでしょ?」


「ふざけるな! 水曜日だけ売れても、他の曜日が売れなかったら、どのみち長続きはしねえよ!」


「なるほど。言われてみれば、確かにその通りですね。じゃあ潰れる前に、自分から店を畳んだ方がいいんじゃないですか? はははっ!」


 そう言うと、清水は意気揚々と店を出て行った。

 そんな清水を怒りの目で見送りながらも、彼に自分と同じにおいを感じている加藤だった。】



(昭和のスーパースターさんに引きずられるように、令和のスーパースターなんて人物を登場させてしまった……どうせまた今回も最下位なんだろうな)


 俺はそんなことを思いながら、床に就いた。




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