第43話 書籍収録なるか?

 11月2日の正午、俺はトップテン入りして書籍収録されることを祈りながら、ヨムカクのページを開いた。


【みなさん、こんにちは。早速ですが『アンソロジーを狙え』最後のテーマ『料理』の結果を発表します。】


 1位    肥前ロング    佐賀の郷土料理


 2位    川岡咲美     三ツ星より母の味


 3位    大本けん     トンカチよりトンカツが好き


 4位    月代礼      月に代わっておしんこよ!


 5位    上東良夫     ラーメン好き


 6位    二歩       フルーツ好き


 7位    ゆうかり     メロンパンダ


 8位    アカヤ      いなりずしの思い出


 9位    名も無き人    美味しい味噌汁の作り方


 10位   九子実      最後までもじってみました(笑) 


 67位   ケンタ      第一回料理王選手権

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 1674位 昭和のスーパースター  僕を好きなように料理してください


(なにー! 67位だと? ……けっこう自信があっただけに、ショックが大きいな)    


 俺はそんなことを思いながら、選評に目を向けた。


【まずは10位以内に入られたみなさん、おめでとうございます。みなさんの作品は来年刊行予定の短編集に収録されますので、楽しみにしていてください。

さて、最後のテーマ『料理』に関してですが、予想通り、物語の中に様々な料理がでてきて、読んでいてお腹が減ってきました。まあ、それは冗談ですが、10位以内に入った作品は、どれも料理の描写が秀逸で、読んでいて食べたくなるような作品ばかりでした。今回10位以内に入れなかった方は、これからは是非とも描写に力を入れてみてください。】


(描写力か。それが足りないのは薄々気付いていたけど、そう簡単に上達するものでもないんだよな。……でも、それを身に付けないと、プロにはなれないんだろうな)


 俺は弱点を指摘されたことで、逆にプロになりたいという気持ちが、より一層強くなった。




 11月中旬、俺たち三年生と高橋、一条は一級の試験に挑戦した。

 結果が出るのは一ケ月後だが、俺を含め、ほとんどのメンバーは既にあきらめムードだ。


「商業簿記の問題量が多すぎて、焦っちゃったわ」

「私は工業簿記が全然分からなかったです」

「私は原価計算。元々苦手なうえに、まったくやったことのない問題が出たから、もうお手上げ状態だったわ」

「私は会計学ですね。企業会計原則についての問題があんなに出るとは思いませんでした」

「俺は全体的にできなかったよ。まあ、威張って言うことじゃないんだけどな。はははっ!」


 そんな中、林だけは俺たちと違い、自信に満ち溢れた顔で、「俺は今までと違って、かなり手応えがあった。もしかしたら、もしかするかもな」と言った。


「本当かよ。お前、目立とうと思って、ふかしこいてるんじゃないのか?」


「そんなことして、何の意味がある? まあ見てろよ。一ヶ月後には、我が校初の一級合格者が出ることになるから。はははっ!」


 林はそう言ってるけど、俺を筆頭に信じている者はほとんどいないだろう。




『アンソロジーを狙え』が終わり、中断していたリレー小説が復活することになった。

 前回一位だったアラー・カーンさんは、テーマの『文化祭』に対し、高校生が模擬店をする物語を書き、二番手の夢見がち代さんは、その模擬店に主人公の彼氏が突然現れる展開にしていた。

 さて、それを引き継いだ昭和のスーパースターさんが一体どんな展開にしているのか、俺は大した期待もせず、彼のページを開いた。


【模擬店のカフェに、なぜか彼氏がやってきた。今日が文化祭だってことすら言ってなかったのに、なぜ彼はここに現れたのだろう。

 私が呆気にとられていると、彼が「なんか驚かせたみたいで、悪かったな」と謝ってきた。


「ううん。それより、今日が文化祭だってこと、誰に聞いたの?」


「知り合いに、この高校に通ってる奴がいて、そいつが教えてくれたんだ」


「ふーん。じゃあ、とりあえず、あの席に座って」


 私は彼を奥の席に案内し、注文を聞いた。


「じゃあ俺、コーヒーにするよ」


「かしこまりました」


 私はそう言うと、逃げるように彼の前から離れていった。


「ねえ、恵美の彼氏が来てるって、本当?」

「嘘ッ、どこにいるの」

「あの奥の席よ」

「結構、かっこいいじゃん」


 瞬く間に噂は広がり、私は顔から火が出そうになるほど恥ずかしかった。


(こうなることが分かっていたから、彼には伝えていなかったのに……)


 私が言うのもなんだけど、彼は超が付くほどのイケメンで、そのうえ身長も高く、学校も市内で一番偏差値の高い学校に通っている。

 そんな彼と平凡な私がなぜ付き合っているかというと、バイト先の本屋で知り合ったから。

 一緒に作業をしているうちに、彼のことが好きになり、私の方から告白した。

 私は付き合ってもらえると思ってなかったから、彼が承諾してくれた時は、天にも昇る気持ちだった。

 といっても、別に死んだわけじゃないんだけどね。


 彼と付き合うことになって嬉しいのは嬉しいんだけど、一つだけ悩みがある。

 それはバランスが取れていないこと。

 完璧な彼に対し、私は顔も頭も普通で、なんの取柄もない。

 彼にそのことを言うと、『そんなの気にするなんて、馬鹿げてるよ』と一蹴された。

 私も頭では分かってるんだけど、どしてもそのことが気になる。

 こんなに気になるのなら、いっそ付き合うのをやめた方がいいとさえ思う。


(口には出さないけど、みんな心の中で私と彼がつり合っていないと思ってるに違いない。ああ、こんなみじめな思いをするくらいなら、ここで別れを切り出した方がいいわ)


 私はそう決意し、彼の席にコーヒーを運びに行ったついでに、宣言した。


「私はもうあなたと別れます。理由はあなたに飽きたからです。そうと分かれば、それを飲んだら、さっさと出て行ってください」


 私の辛辣な言葉に、彼はしばらく呆然としていたけれど、やがて我に返ると、勢いよくコーヒーを飲み干し、そのまま逃げるように店を出ていった。】



(なるほどね。いつもよりはマシだけど、この続きを書くのはかなり難しいな……まあいいか。もう眠いし、続きは明日書こう)


 俺はそんなことを考えながら、そっとパソコンを閉じ、床に就いた。



 



 





 

 




 



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