チョベリグナイツ!NOW ON AIR!
呉根 詩門
プロローグ
こんなはずじゃなかった…
俺は、朦朧としている意識の中、後悔のみが頭の中で一杯になっていた。
元の話はつい、数時間前に長年同棲していた彼女が
他にいい男ができたから、出ていくわ。
と、俺はまるで使い終わったティシュの様に投げ捨てられた。
そのあまりのショックで俺は行く当てもなくフラフラと街中を彷徨っていた。
園子…何で俺を捨てたんだよ。俺の何が悪かったんだよ…結婚の話だって進めてご両親にも挨拶しに行ったじゃないか…それなのに何で…
もう、俺の視界は、本来なら煌びやかに輝いてるはずの夜の街は、漆黒に染まっていた。
もう、どこに向かって、どこに行こうとしてわからない俺の耳につんざく様なクラクションが響いてきた。
俺はうるせぇなぁと思って音が鳴っている方を向くと大型トラックが眩しいヘッドライトを照らしながら突っ込んで来ていた。
そして、運命なのか必然なのか、よくわからんが俺は、まるで野良猫か狸よろしく勢いよく突き飛ばされた。
そして、思いっきりアスファルトに頭を叩きつけられて、俺は思ったね。
ー あ…俺の人生終わった ー
薄れゆく意識の中、俺はもっと俺に金や名声があれば…
それがあればもっと違った人生だったはずなのに…
クソ…クソ…クソ…
せっかく俺がこの世に生を受けて結局非正規労働者で名もなき人で終わるなんて…
クソッタレが!
ーーーー
ーハイ!本番いきます!ー
今俺は、深夜のラジオブースの中でマイクを前に座っている。ブースの中には俺一人。
何でこんなことなっているかって?そんなの知らねぇよ。
意識を取り戻して気づいたら、俺は小学生だった。
どういうカラクリは、知らねえ。
ただ、これはいわゆる転生ってやつじゃないか?
俺はマンガやアニメの様な出来事がリアルに起こるなんて信じられなかったけどな。
別に神様とご対面してチート能力授けますとか、大金持ちのお家に生まれますよ、とか無くごく普通の家庭でごく普通の容姿で生まれた。
名前も美樹本春彦と名付けられ2回目の人生が始まった。
ただ一つこっちには最大の武器があって2回目に生まれたのが昭和43年。前の人生で生まれたのが平成元年だから過去に遡って転生したわけだ。
それの何が武器だって?
これから何が流行るのか?何の事件が起こるのか?全て丸分かりなのよ。
ある意味これこそチートじゃね?
情報こそ最大の武器なり。会ったこともない神様ありがとな。
てな事で、勉強は前の人生の知識があるから余裕だし、俺が成人した頃は、景気がバブルだから就職も楽なわけよ。
だから、余裕で俺は放送業界へと就職した。
これこそ、情報という武器が最大に活かせる場所。
何より綺麗なお姉さんがわんさかいる所でもあるし、前の非正規労働者のゴミみたいな世界とはダンチなわけ。
でも、俺はこれから日本が長い間暗く湿った不景気になるのも知っているから、悠長な事は言えない。
ここで一つ、確固たる立場を築かなくてはと思い、会社の中のラジオ放送部門に配属を希望した。
容姿が地味だから、テレビはダメよ。
絶対俺の顔、人の記憶に残らないから。
ただ口だけは達者だからそれ活かすつもりだった。
まず、ADから始まったが、何がどう間違ったのか、てっきりディレクターになると思いきや、ラジオDJ…所謂ラジオパーソナリティとなって今に至るわけだ。
ディレクターの松本さんがカウントしてキューを振った。
「オラァ!野郎ども!こんな夜更けにラジオ聴いているなんて頭大丈夫か?
そもそもこんなラジオ聴くより、アテネオリンピック見た方が良いんじゃないか?
悪いことは、言わん!今すぐラジオの電源落としてテレビをつけろ。
きっと、ゆずのメロディーに流れて感動的なシーンが見れるぜ。
松本さん、そんなに睨まない。
な、なんだって?
あまりにも裏番組を勧めるなら、番組降りてもらうって?
やなこったい!
なぁ、お前らもそう思うだろ?
誰がどう言おうとここは俺の城だ。
誰にも譲らん!
ではタイトルコールやるぞー!
ー美樹本春彦の!チョベリィぃぃグナーイツ!ー
な、なぁ?
さっきからここからマスター室見えるんだけど、全然俺のこと見てないわけ…
クソ!なんなんだ?
あ!そうかあいつらオリンピック見てやがるな!
ずりぃぞ!こんちくしょう!
少しは俺を見習って働け!
ん?曲のリクエストだって?
誰の?
松本?
お前のだって?
何があった?
テレビを見ればわかるって?
なら、俺、帰って見てもいいですか?
ハイハイ働きますよ。
では、ディレクターの松本さんのリクエストで ゆず の栄光の架け橋です!どうぞ!
ーーーー♪
なんかテレビは、見てないけど俺のシックスセンスが体操男子団体が金を取った気がする…
何、そんなに馬鹿みたいに驚いた顔してんだよ?
抜けた面が更に抜けて見えるぜ!
さっき俺の心の耳には
「伸身の新月面が描く放物線は、栄光への架け橋だ」
て聞こえたぜ!
おーい!おーい!
何鳩が豆鉄砲喰らった顔してるんだよ!
たく!気を取り直してラジオも、オリンピックも始まったばかり、これから2時間宜しくな!
FAX、お便り、メールを待ってるぜ!
オリンピックのように熱く燃えていくぜ!
ついてこいよ!
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