第6話 周辺地域を支配する恐るべき魔物達
どうやらわたくしたちは完全に包囲されてしまっているようです。
正面にはブルーイッシュウルフのリーダーが。
周囲には部下たちが隙間なく囲っているのでしょう。
これでは逃げ場なんてもうどこにも無さそう。
「前に警告したはずだ。早くこの山から去らねば身の保証はしないと」
「ええ存じております。わたくしとしても皆様と事を荒立てる気はありません」
ただ、狼系魔物と言えば容赦なく集団で襲い掛かるイメージが強い。
その知識と比べると、猶予をくださる彼らはむしろ紳士的というか。
そう気付くとなんだか少し悪戯心が湧いてきました。
ではちょっと試しに子猫らしい弱みを見せてみましょうか。
「でもわたくし、他に行く所が無くってぇ」
「ムッ」
「お友達と仲良く暮らせる場所が欲しかったにゃーん!」
「ムムムッ!」
あ、なんか尻尾振ってます。
鋭かった目付きもいつの間にか丸くなっていますし。
これ、完全に子どもには甘い感じの方ですね!
そういえば初めてこの山に来た時、襲ってきたのは部下だけでした。
以降は警告してきても襲っては来ず、遠目で眺めてばかりでしたねぇ。
あれっていわゆる、子どもを見守る親ムーブだったのでしょうか。
「それにこの場所は皆さんの縄張り外のはず。ですからここで最初に営巣を始めたわたくしたちにも住む権利があると思いますっ!」
「確かにな。そこは認めよう」
あっさり認めてもらいました。やはりとてもお優しい。
人間相手だと容赦無いけど、魔物同士だと結構優しい種族なのかもしれません。
となれば――
「だが、人間を連れ込んだならば話は別だ!」
やはりこうなるのでしょうね。
何となく予想はしておりましたが。
彼らブルーイッシュウルフはこの山一帯を支配する魔物の群れ。
だから封印の地へ赴こうとしたミネッタさんたちに襲い掛かったのでしょう。
魔物に人間の都合なんて関係ありませんから。
「あの人間を差し出せ! さもなくば……」
「さ、さもなくば?」
「……この土地を我々が奪っちゃうぞ! それでも良いのかっ!?」
や、やっぱり優しいー!
そこで子どもに「殺す」だなんて口にしない辺りが配慮を感じて凄く親切です!
そんな方とは出来れば仲違いしたくはありません。
しかしだからといってミネッタさんを差し出そうと思うほど薄情でもありません。
なんとか穏便に事を済ませられないものでしょうか。
「彼女を――人間を見逃すという選択肢は無いのですか?」
「無い。そもそもそんなことなど無意味というものだ」
「えっ?」
なんでしょう、妙なことを口走っていますね。
説得が無理そうなのはわかりますが、無意味とは一体?
そう思っていた時、リーダーの狼が首を上げてわたくしたちを見下ろします。
しかもなんだか得意げに牙を剥かせながら笑って。
「なぜなら今宵、我々が人間の村を襲撃するからだ。そこの人間が足を踏み入れたことへの報復である!」
襲撃……!? なんということでしょう!
驚愕するあまり、爆裂術が放たれたかのような爆音までが頭に響きました。
――あ、いえ、爆音はミネッタさんのイビキでした。
「ジュゴゴゴ……ブビッ、ゴォォーーー!」
「奴ら 元より居 だけで気 障る存在だっ ! 故 今回 ことを発端 、我々はかねて り進め いた計画 決行す ことに決め のだ!」
「グォォーーー!!! ガォォォーーー!!!」
「そ 手始めと てまずはそ の人間を生贄にし、奴 に宣戦布告 る! そ て直後に襲 掛かってあの村 占拠す のだァ!」
「バォォーーー!!! ブギャロボォォォーーー!!!」
「ええーい!!! 煩いわアアアーーーーーー!!!!! 殺す! 絶対殺す!!!!!」
ああっ、あまりのうるささに狼さんもガチギレしてしまいました。
踏み馴らし始めてしまったし、もう口先では収まりがききそうにありません。
わたくしとしても半ば聞き取りづらいので、こっそり消音術を展開。
これでお家が防音施設と化したので妨げられることはもう無いでしょう。
もっとも、それでも狼さんの怒りは収まらないようですけど。
「急に静かになったがまぁ関係無い。人間は殺す。それは決定事項だ。その意に逆らえばお前たちも容赦はせんと思え!」
「どうしてそこまで毛嫌いする必要があるのです!?」
「むしろ今の妨害で嫌わない理由、ある?」
「か、返す言葉もありません……」
図星を突かれて思わず目を逸らしてしまいました。
彼、意外と冷静だったみたいでビックリです。
でもそれなら少しくらいは話を聞いてくれても良いのですが。
これをなだめるのはさすがに無理かもしれません……。
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