第2章
1︰迷宮管理局 前編
ひだまり迷宮の探索が終わり、俺達は迷宮の外へ繋がる通行門の前に立っていた。
本来ならこのまま家に帰るのだが、手に入れたアイテムがUUR武器【機巧剣タクティクス】に、とんでもないアクセサリー【神皇の花飾り】を手に入れてしまったからそうもいかなくなった。
ということで、俺は迷宮管理局の支部へ行くことを決める。
「と、いうことでレアアイテムも手に入れたし、今日の配信はここまでかな。みんなぁー、今日も見てくれてありがとねぇー!」
〈おつおつー〉〈おつつー〉〈おつ〉〈おっつおっつ〉
〈気をつけて帰ってねー〉〈今日も楽しかったよー〉〈ボスとの戦い見たかった〉
〈あ、もう終わりか〉〈終わっちゃうのー?〉〈アヤメ気をつけてねー〉〈アヤメちゃん今日もさいこうに楽しかった気をつけて帰ってね〉
アヤメが手を振り、配信を見ていたリスナー達と別れの挨拶をする。
そして、完全に配信が終わると俺の方へアヤメは振り返り、持っていた【神皇の花飾り】を返してくれた。
「ありがとね、クロノくん。君のおかげで今日の配信は大成功だよ」
「どういたしまして。これからアヤメはどうするんだ?」
「ドローンに設置してるカメラの強化かな。途中でゴーレムの魔力を受けて配信が止まっちゃったみたいだし。クロノくんはどうするの?」
「迷宮管理局に行くよ。レアを二つも手に入れちゃったから、さすがに報告しないとマズそうだからな」
「そっか。じゃあ今日はここでお別れだね」
アヤメは少し寂しそうな顔をする。
うむ、さすが有名配信者だ。寂しそうな顔までかわいいなんて、すごいな。
『何イチャイチャしてるのよ、アンタ達。早くカメラのカスタマイズしに行くわよ』
「お前はどこをどう見たらイチャイチャしていると思うんだ、バニラ?」
『してるじゃない。ま、初々しいから目の保養になるけど今は時間がないの』
バニラがやれやれと頭を振っている。
いやまあ、確かにアヤメのかわいさに目を奪われていたけどさ、そんな言い方するか?
「あははっ、バニラは手厳しいから。後でしっかり言っておくから今回は許して。ね、クロノくん」
「まあ、別にいいけど」
アヤメはもう一度「あははっ」と笑いながら俺に「ありがと」と言ってくれる。
しかし、バニラの発言が予期せぬことだったためかちょっと困り顔だ。
手を合わせ、お礼を言いながら「ごめんねぇ~」と謝る彼女だが、それはそれでかわいらしい。
なぜこんなにも一つ一つの行動が可愛いのだろうか。
うーん、おそらくこれは天性の才能というものなんだろう。
『ちょっと、早くしないと店が閉まっちゃうわよ!』
「はいはーい。あ、そうだ。連絡先を交換しよ。これからクロノくんには配信を手伝ってもらうんだし」
「あ、そうだな。じゃあ俺のコードはこれでっと」
俺はスマホを取り出し、メッセージアプリを起動してコードを表示した。
俺の行動を見たアヤメはちょっと嬉しそうに笑い、スマホを取り出し「読み取り読み取りーっと」と言葉を出しながらコードを読み取る。
直後、【連絡先を追加したよっ】という音声が俺のスマホから放たれた。
「それじゃあ、次の企画が決まったら連絡するね」
「わかった。アヤメ、気をつけて帰れよー」
「うん、またねー!」
アヤメは慌ただしくしながらバニラと一緒に迷宮の外へ出ていった。
有名配信者になると時間にも追われるんだろう。
そんなことを思いつつ、俺も迷宮の外へ出ることにする。
目指すのは町の中心部に建つ迷宮管理局の支部だ。
「あんまり気は進まないんだけどなぁー」
なんせそこには、俺をよく知る人がいる。
だから怒られそうで嫌なんだけど、まあ状況が状況だから行くしかない。
俺はため息を吐きながらまずは町の中心部を目指す。
重たい足を動かしながら駅へ行き、転移床を踏んだ。
一瞬で移動し、そのまま外へ出ると数年前まで寂れていた商店街が目に入った。
迷宮が出現するまで、ほとんどの店がシャッターが降りている商店街だったけど今は全部営業している。
これは迷宮の出現と共に探索者が来るようになり、活気を取り戻したからだ。
だから商店街は地元の人や訪れる観光客だけでなく、探索者も相手に商売をしている店であふれていた。
まさに迷宮さまさまだ。
経済効果はどのくらいなのかわからないけど、一度死んだ商店街を復活させてしまったんだからな。
そんな蘇った商店街通りを進み、俺はその奥にある建物に目を向ける。
それはどの建物よりも一際大きなビルで、掲げられた看板には【迷宮管理局・尾俵支部】という文字があった。
俺はそのビルへ入り、受付をしているおじさんに声をかける。
おじさんはやつれた顔でぎこちない笑顔を浮かべ、こう言葉を口にした。
「いらっしゃい。こんな時間に迷宮探索かい?」
「えっと、アイテムの報告をしたくて……いいですか?」
「アイテムの報告? ああ、あれね。ちょっと待ってて」
「え? あ、はい」
おじさんはそう言葉を告げると、テーブルの上を漁り始めた。
しかし、目当てのものが見つからなかったのか顔が曇る。
なぜだかわからないけど「あれ?」という疑問を浮かべた表情をしていた。
「ごめんね、もうちょっと待ってて」
「はぁ……」
「はて? 書類はどこにやったんだっけかな?」
次第に真剣な表情へ変わり、そこには必要な書類がないと判断したのか何かを探しに事務所の奥へ消えていった。
取り残された俺は、とりあえず受付カウンターの前で立ち尽くす。
しかし、いくら待ってもおじさんは帰ってこない。
そんなに探している書類が見つからないのかな?
そもそもだが、アイテムの報告に書類は必要だったんだろうか。
うーん、ここの職員じゃないからわからないなぁ……
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