超機人大戦GEKI

RAMネコ

オープニング“ハワイの魔物”

 MLRSから放たれたミサイルが割れる。


 数百もの小型弾頭がばら撒かれ降った。


 瓦礫の山と化しているホノルルに落ちた。


 それはMGM-140 ATACMSと呼ばれる大型の地対地ミサイルであり、放出されたのはM74子爆弾九〇〇個である。


 アロハ革命以来、数年に渡る戦闘の中で破壊された夜のホノルルで次々と炸裂した。黒い花が咲き乱れ破片が撒き散らされては人や物に引き裂いていく。


「AFTAからの挨拶だ」


 と、廃墟でコーヒーを淹れていたOCU兵士が呟く。コーヒーにはガムシロップもミルクも大量に注がれてドロドロと白い。


 OCU兵の前には、防弾装備で固めてはいるが銃を持っていない人間がカメラを回していた。戦場入りした取材チームが砲撃される中で撮影していた。


 あるべき壁には『巨人』が倒れこんでいるせいで崩壊していた。降る雨が冷めきった装甲を伝い頭部のセンサからしたたる。


「体力がつくぞ、みんな、飲んでくれ」


「はい……『亡霊』についてお話しを」


 風切り音──。


 500kg滑空爆弾が落ちた。


 カオスの釜の底と化したホノルルの市街地をOCUとAFTA、二大勢力の軍人が戦っていた。そこには戦車や戦闘機に歩兵だけがいるわけじゃない。


『雨風あります。ドローンは家でしょう』


 AFTAの主力戦車であるレオパルト3が四両、砲身をバラバラの四方に向けて警戒しながら半分構造を失った高層ビルの合間を、無限軌道で踏みながら進む。


 レオパルト3は、イタリアのルクレールの砲塔、ドイツのレオパルト2の車体を組み合わせて、エンジンや火器管制装置など時計細工な精密さを戦場で叩き直し頑強に鍛え直した戦車だ。


 あるいはM3、ルクレール2と呼ばれた。


 レオパルト3のディーゼルエンジンが低い唸りをあげ、排熱がグリルに掛かった雨を蒸発させる。


 レオパルト3の砲塔上の小型砲塔であるRWSが上空を警戒して電子光学、熱線の両方で走査を続ける。


 レオパルト3に続いてマルダー歩兵戦闘車、そしてAIGSと呼ばれる巨大ロボの“フォッケ”が続いて歩く。


『気を抜くな。OCUの戦車隊がどこかにいる筈だ。10式G型は面倒な敵だぞ』


『AIGSも厄介ですね。まったくバンドデシネの中にだけいれば良いものを、あんな物が飛び出してくるとは』


『一九世紀からいたさ』


 乱反射して乱れる熱線映像のモニタの中で、強調表示された物体があらわれた。戦車だ。OCUの90式G型、楔形の砲塔と増加装甲で固めた車体はレオパルト2の姿にそっくりだ。


『パクリのコピー野郎めッ』


『IFVとAIGSは側面展開!』


 レオパルト3の四両は、90式G型三両と遭遇した。即応できたのは正面に砲身を向けていた一両で、一瞬で照準を完了し、車長、砲手、射手の完璧なチームワークで、既に装填されていたAPFSDSを放つ。


 120mm APFSDS弾は装薬の燃焼で長い砲身を抜けるまでに1500m/sを超える初速に達し、ガスと炎を伝承の竜がブレスしたかのごとく飛翔する。空中でサボを分離、安定翼の付いた細長いタングステン合金の矢が90式G型の砲塔後部を側面から斜めに貫いた。


 弾性限界を超えたタングステン合金は、着弾の衝撃で崩壊して、APFSDSは装甲を貪るように犯し先端をキノコ丈にしながら車内へ、そして防火扉さえ突き破り、装薬で満たされた弾薬庫を破壊した。


 90式G型の砲塔後部上面のブローオフパネルのボルトが装薬の燃焼の圧力で千切れ火柱があがる。しかし防火扉が破られたことで炎は車内にも達していて、乗員のハッチからも炎があがった。


『やったぞ!』


 90式G型から反撃が来た。


 炎上する車両を盾に120mm戦車砲。


 炎が揺らいだ瞬間、レオパルト3に地獄の悪魔が肩を叩いたかのような衝撃が襲う。


『うッ!』


『い、生きてるか?』


『FCS他異常なし!』


 道路を挟んで120mm砲弾が飛び交う。


『攻撃を開始する』


 降車した歩兵部隊が雨の中、MATADOR、パンツァーファウスト3の対装甲兵器を浴びせた。噴煙と閃光、戦車戦に横合いからロケットが飛ぶ。


『フォッケ1、攻撃を開始する』


 フォッケのガンポッドが90式とともに展開していた96式装輪装甲車と歩兵を区別なく破壊した。96式は雨の中でも視認できる火花をあげつつも煙をあげながら後退する。


『ピッグ2より各車へ、砲撃中止せよ。残存する敵の反撃に注意しつつ報告』


 短くも激しい砲声が連続して、炎上する90式G型が二両残されOCUは撤退した。


 レオパルト3の車長が安堵の息を漏らす。


『今のは……殴りあうには近かった』


『やられていてもおかしくなかったです』


『縁起でもないこと口にするな』


 AFTAのレオパルト3らは、炎上する90式G型の傍を走り抜けていく。炎がレオパルト3の装甲を燦々と照らすなか、どのレオパルト3の砲身にも撃破マークである帯が描き込まれていた。


 マルダー歩兵戦闘車は降車させていた歩兵を回収している。激しい砲撃を繰り返したマルダーの主砲である20mm機関砲は雨に打たれて湯気をあげていた。


『AIGSに注意しろ。90式G型ということはジャポネだぞ。漫画大国のロボは強い』


『うちのAIGSも思いのほか使えそうです』


 戦車四両、歩兵戦闘車二両に混じる、異様なシルエットである巨大ロボ。攻撃ヘリコプターに足を生やしたそのままな巨大ロボは、たった二人で戦闘機並みの火力を発揮する。


『人形の玩具に期待するなよ』


 と、車長は、戦闘中に何度もぶつけたヘルメットの顎紐を確認しながら言う。


『ハワイまで来て戦争か』


『ハワイと言えば、噂を聞いたことは?』


『どんな噂だ』


『マウイの悪戯です』


『あの悪霊か』


『悪霊じゃないですよ。ポリネシア神話版のロキです。トリックスター。ディズニー映画で観たことあります』


『オタクめ』


 レオパルト3の隊列の遥か上。


 屋上を失った高層ビルが雷光に照らされ、人型のシルエットを浮かびあがらせる。人間ではない。AIGSと同じ、4mはある巨大な人の形をした存在だ。


 レオパルト3のRWSが異常を検出して警報を上げていた。すぐさまRWSから巨人に向かって機関砲弾が放たれ、上空を盗られたレオパルト3らは離脱しようとエンジンに燃料を流しこむ。


『マウイか!?』


『違う、AIGS!』


 AIGSと呼ばれた人型が、雷光の中に飛ぶ──逃げようとしていたレオパルト3は止まっていた。いや、起動輪は回り続けていて無限軌道のシステムは全力で地面を走ろうと回っていた。


 50tある戦車が四両、浮いていた。


──釣り上げられていた。


 車長用ハッチが恐る恐る開く。


『悪魔め』


 AIGSなどではない。


 悪魔と呼ぶならマウイだろう。


 巨大ロボの姿をしては、いた。


 だがAIGSが装甲車両等と同じ技術の中にいることを感じる。装甲、動力、武器、センサあるいは駆動音であるのに対して、マウイは違いすぎた。


『本当にコミックのスーパーロボットか』


 レオパルト3は地面が隆起した衝撃に車体の底から貫通され、小さな火山噴火の一撃の中で完全に破壊され、スラッグに変わりながらホノルルの底へと呑まれていった。


 マルダー歩兵戦闘車が歩兵もおろさずに、全滅した戦車隊の仇をとろうと20mm機関砲を放つ。曳光弾が空にあがっていた。


 雨の中を対戦車ミサイルが飛翔する。


 マウイの亡霊に集中していたマルダーのクルーは攻撃への対処が遅れた。対戦車ミサイルの口吻状に伸びた信管が装甲に当たり、起爆した。爆圧で生じたメタルジェットが装甲に鉄の槍として刺さり貫いた。


 雨の中、OCUの巨大ロボが来る。


『……また、マウイか……』


『AFTAのAIGSが接近中』


『生き残り、だな』


 隻腕のフォッケが脚部ホイールを使い最大速度で特攻してくる。装甲で雨粒を跳ね除け、いつ誘爆するともわからないスパークや炎上していてもそれを選んだ。


 フォッケの腕でもある機関砲ポッドの多銃身が回転する前に、総攻撃で蜂の巣にされポッドは吹き飛ばされ弾帯から機関砲弾が飛び散る。


 OCUのAIGS部隊は微塵も揺らぐことなく淡々と、暗視装置を使い見て、銃身に抑制器を付けたライフルから砲弾を放つ。


 センサが雨を吹き走査した。


 亡霊の姿は……消えていた。


 OCUとAFTAの間の戦争だ。


 しかし確かに、OCUともAFTAとも違う『スーパーロボット』と呼ぶ存在がいた。


 廃墟の中で、どろどろのコーヒーを飲む男が取材人にコーヒーを出した。泥は混じっていない味が特別に濃いコーヒーだ。


「やっぱりコーヒーは苦手だね」


 取材人が訊いて、男は答えた。


 戦争に対してどんな気持ちか。


 国際秩序や平和を乱してないか。


 戦争犯罪に加担している自覚は。


「ところでスーパーロボットは好き?」


 苦手なコーヒーを、飲み干した。

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