第30話
文学を、熱心に読んでいたり、実作していたり、そういう人にはどこか「普通一般と違う」、そういう偏奇な面があるように思う。 それはなぜか? 実例を引きつつ考えてみたい。
思いつく、いろいろ最近に文学賞とかの受賞者のイメージとか想起しても、わりと個性的な人物が多い。 障害があったり、しゃべっている感じが多少違和感あったり?する。 人格円満な雰囲気の人物もいるが、わりと社会不適応者っぽい人も多い。…これは私見ですが。
つまり、「天才と基地外は紙一重」そういう一般論の如実な例が、ここにも表れているだけ…そうかもしれぬ。
著名な有名人の誰某が、実はアスペルガー障害…そういうことはよく仄聞する。
「引きこもりの人は社長になる人に類似性がある」と、ひきこもりや、いろんな成功者にインタビューしてきたというジャーナリストさんの著書の中の述懐にあった。
個性的で孤独ということは、無能と同義でなくて、むしろその逆かもしれない。
アタマが良すぎて、周囲と違和感がある…それはよくあるケースでありそうで、で、孤独に考え詰めたり読書したりして…で、ある特殊な発想や秀抜な知的生産に結びついたりする…学者とか作家にはポピュラーなパターンかもしれない。
「禍福は糾える縄の如し」であり、「艱難辛苦は汝を玉にする」、どちらも真理だと思う。 親から受けた間違った教育のために、周囲から浮きまくって、攻撃され続けて、それで悩みぬいて、やっと「特異な才能」が芽生える契機が生じるのだ、と、さる心理学者は書いている。 「つぶれてしまうかもしれないが」という但し書き付きでですが。
個性的と言えば、文学者くらいユニークな人種はまずいない。
同工異曲な、千篇一律な、くだらない退屈な文学とかは一顧だにされない。個性的なサムシングエルズがあってこその novel である。 直訳すると、ノベル(小説)は「新奇なもの」になるのです。
ボクは、この前に別のエッセイで、”人類”の定義として、”ホモ・ヴァリアス”…「多様性に富んだサル」というのを提唱してみたのですが、だからユニークであってこそ、もっとも人間らしい…そういう発想なわけです。
文明やら文化やらを進歩させてきたのは、たぶん、一握りの、周囲から浮いている偏奇な天才であったろう。 ニュートンでも、ガリレオでも、アインシュタインでも、エジソンでも、ホーキング博士でも、一風変わった唯一無二の個性が身上というような人物だったと思う。
自分は平凡な魯鈍ですが、? 文学をやっている人に共通の? 変わった条件下に人間形成することを余儀なくされていたが故の、偏奇な個性にはなっている、なってしまっている、それはだから逆に強みかも?とも思う。
ある作家が偉大である場合は、その歴史的、運命的な典型性、必然性。その在り方がきわめて深い真実を物語っているとか、そういうことが多いのだと思う。
ルネサンスという特異な条件下でこそ、ゲーテのロマンチシズムは花開いた。
大正という淫靡で暗鬱な時代背景で、乱歩の作品は妖しい光彩と陰翳を際立たせて見せた…
時空間、そうして人格、社会背景、さまざまなバイアスの函数として、ある芸術的な才能や作品が、超時代的な評価を受けて、脚光を浴び、ひとつの記念碑となる…そこにおいては集団の中の順位の優劣というのは意味をなさず、下剋上、革命、奇跡のような「個性の勝利」? あらゆる既成の価値観を凌駕しうる、「ホモ・ヴァリアス」の、真骨頂が発揮されうるのである…
弱いから、虐げられているはぐれものだからこそ、そういうアクロバットをなしうる…それこそが文学という不可思議な秘儀空間のレゾンデトルではないか。
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