あの空へ

プロローグ あの空へ

 ウルフとフォックスが休暇を過ごしている時、大熊はATC本社に呼び出されていた。

 彼は上層部から賛辞と臨時賞与、それから次の任務を受けた。


 その任務を聞いて、大熊は首を傾げた。


 コルサック・ベルヌーイの企業連合が機密会談を行うというのだ。

 場所は南国に浮かぶ中立国のノヴァリア共和国のヴァルハル島。

 ウルフらの任務はそこまでの道中のコルサック企業重鎮たちの護衛任務だった。


 これだけでもキナ臭いのに、これには追加の条件があった。


 ノヴァリア政府は両国間の関係を鑑みて、護衛戦闘機の派遣を許可する。

 ただし、最低限度の戦力であるものしか認めない。

 具体的には、第2世代ジェット戦闘機までとのことだ。


「まったく無茶苦茶なことを言いやがる」


 大熊は失笑した。

 ATCは慌てて保有する機体の中から、第2世代ジェット戦闘機を探した。

 どれもこれも、半分スクラップなったものばかりだったが、唯一この機体だけは綺麗な状態で保たれていた。


 何故か?


 それは各国でジェット戦闘機開発が進む中、試行錯誤の末に極めて特殊な形状をしていたからだ。ダブルデルタ翼と呼ばれるそれは、ジェット戦闘機の先駆け時代に造られたとは思えない機動性を有していた。

 現在でもそれは研究の価値がある代物だった。

 しかし、電子制御の補助が無いことも相まって、パイロットに非常に高い技量が求められた。

 持て余され、放置されていたのだ。


「これもめぐりあわせか」


 大熊はその格納庫の扉を開け、それと再会する。


「久しぶりだな、相棒ドラケン


 J 35F ドラケン


 それは大熊があまり語ることのない、彼が戦闘機パイロットをしていた頃の愛機だった。


「お前をもう一度、あの空に上げてやろう。

 うちの狼がな」




次章 あの空へ

10/19(予定)から連載開始




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