事実とそれ以外
——————————女性だけの町の住人は、脱落者の集まりである。
この文は、正解であり正解でもない。
少なくともその町に生まれた人間にとっては脱落も何もそこが故郷であり、脱落しようがない。と言うのは屁理屈だが、その町に希望を抱いて来た人間、実際にその町で悠々と暮らしている人間にとっては紛れもないユートピアであり、脱落者とか言うマイナスのイメージを突き付けられるような暗さはない。
「女性だけの町の住人は外の世界の漫画やアニメから逃げて来た腰抜けの集まり」
「無害なそれと有害なそれの区別もつかない花粉症患者たち」
「何でもないような存在にエロティシズムを見出して暴れてしまう変態ども」
女性だけの町の住人たちに投げ付けられる三大悪口—————とか言うそれがいつ決まったのかはわからないが、イメージとしてはそんな人間たちの集まりに見えたらしい。
いずれにせよ「たかがその程度」の代物にビクビク脅えて閉じこもるような肝っ玉の小さい連中の集まりであり、取りに足りないザコキャラの集まりだと思われていたのだろう。
その「ザコキャラ」が町を一つ作った以上果たしてザコと言えるのかと言うのはさておき、思想信条と言うか恐怖心が人間をここまで動かすと言うモデルケースにはなったとはしゃぐ人間もいた。
また女性だけの町には、宗教施設がない。葬儀は葬儀場と言う名の企業(正確に言えば精神治安管理社の傘下企業)が行い、墓地は町内共用のそれである。
いや正確に言えば寺社も教会も存在するが、いずれもほとんど墓地を管理していたり婦婦の挙式を行ったりするだけのそれでしかなく僧侶的な事は全くしない。その事についても表向きには「あらゆる宗教の人間を受け入れるため」と言っているが、実際にはもっと強い宗教があるから勝てないのだと勘繰る声も絶えない。
曰く「自分たちが嫌悪する存在がいかに世間にとって害悪であるかを知らしめるべく、それを拒否する自分たちがいかに高尚な存在であるか見せ付ける」と言う愛とか団結ではなく憎悪と恐怖心を根底とした宗教であり、あるいは理解者と言う名の男性を取り込み「女性だけの町」の根幹を揺るがすどころか、世界征服すら企んでいる—————。
さすがにそれはカルト宗教ネタにかぶれ過ぎた発想ではある、と言い切れないのも事実だった。
それについては後述するとして、では何が事実ではないか。
私が見聞した所、先のように女性だけの町に移住して来た人間の中で不満を持っている存在は少ない。外に移住する事を「追放」と言い、生前葬と言う名のビジネスが流行っている
今更外の世界へ戻れないと開き直っているんだろとか言う意見を抱くのはごもっともだが、少なくとも私の知る限りではそんな事を言っている人間は極めて少ない。
多くの人間は、全てを理解した上で来ている。それはあるいは女性だけの町とか言う看板に踊らされて来ただけの人間もいたが、その実態が伝わり出してからはその手の女性は減って行った。
女性だけの町は決して、女性が何もせずに過ごせる町ではない。
しかし、何かをしていればそれなりに暮らせる街である。富裕層が第二次産業に固まっているだけで、食えない職業と言うのはめったにない。あるとすれば漫画家と俳優と言われているが、それでも最上位層はそれなりに儲けているしそもそも数が少ないのでなるのは簡単と言う点では釣り合いは取れている。その点、実にユートピアめいていると言えよう。
問題は女性だけの町に移住する人間の「レベル」がどの程度のそれかと言う事だった。
女性だけの町には女性だけの町なりの人間関係がある、女性同士の方がむしろ陰湿であり疲弊度は上回るのではないか、むしろ危険なのではないか。
だがその危険は、一週間滞在すると消える。
女性だけの町には、いわゆるお局様と言う人種はいない。いたとしても窓際社員であるかリストラ間近の存在であるかのどちらかであり、嫌味恨みをぶつけようにもそんな相手などいないと言うのが現実だった。それでストレス発散のための存在がなければ暴力に走るんだろうとか言うかもしれないが、実際そのためにアングラ施設は存在する。
そのアングラ施設にて物言わぬと言うかある意味こっちにとって好都合な事しか言わぬ存在を殴り飛ばす事については賛否両論もあろうが、その施設が潰れなかったり廃止しようと言う圧力をかけたりする人間がいないかいてもごく少数である事が重要性を雄弁に語っており、そしてそれ以上に新たなる移住者が利用しまくっていると言う事実が重たかった(この5年間で入町1年以内にそのアングラ施設を利用したと言う人間は移住者の35.3%に及び、これは女性だけの町で生まれた人間の5倍以上、創世期の住民を含めても3倍以上の比率に当たる。
なお「10日以内の滞在であった」旅行者は50%近い人間が施設を利用していたとも言われているが、これはそのアングラ施設が外の世界に類似したそれがないため特異な存在として触れられたゆえであろうと筆者は見なしている)。
だがそれこそが「第三次大戦」の原因の一つであったと指摘する声はかなり多いのもまた事実なのだ。
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