断章 掌の上
天界———【3種族同盟】の会議が終了して…数時間が経過した頃の事。
「…ねえエクレール。」
私は顔を上げた。
「妾を無視した精霊は一片も残さず皆殺しになさい。悪魔はチリ一つ残しちゃダメですよ。」
「『混沌神』バリラ様…それは」
「め、い、れ、い…分かる?」
「……」
戸惑う私を見て、『混沌神』バリラ様は急に吹き出した。
「ぷっ冗談よ、冗談www…エクレールったら、本当…そういうのに疎いんだから。それは今じゃないよ、今じゃ…今からやるのは、帝国からデウスを奪還して、ついでにあの連中をぶち殺す…要は帝国をぶっ壊す下準備♪」
「…帝国を…ですか?」
「そ。どーせ、怠惰な羽虫の王と快楽主義のグズで『皆で仲良く同盟組みましょうね♪』…なーんて、言った所で始めから出来っこないんだよ。だって、身勝手な連中なんだから。知ってるでしょ?」
「…はい。」
さっきまでリード卿や『精霊王』オルン様が座っていた椅子を無心で蹴って、壊してから『混沌神』バリラ様はスッキリした表情で、玉座に足を組んで座った。
「ふぅ…こちらの意図を伝えるって目標は達成したから、当初のやりたい事は出来た。南方で帝国を完膚なきまでに叩き潰す準備を着々と整えてるし…ねえ、まだいたの?」
「…え。」
露骨にため息をつく『混沌神』バリラ様は、嫌そうに立ち上がり、円卓から離れた位置で片膝をついている私に指を突きつけた。
「さっさと行きなよ。帝国をぶっ壊す下準備に!ちゃんと言わなきゃ…分からない訳?」
「それは今でなければ……いけない事なのですか。」
流石に予想外だったのか、『破壊神』バリラ様の表情が僅かに凍りつき…淡々と答える。
「懇切丁寧に帝国の話をした事で、天邪鬼でかつ、性格の悪いグズと羽虫の2人は今頃、何かしらの形で、妾達よりも先に帝国に何かしらのちょっかいをかけてる筈。この隙を突いてデウスを奪還…いやもうこの際、壊してもいいわ。先の汚名を挽回出来るいい機会よ?」
「それを見越して…招待したのですか。」
嬉しそうに何回か拍手した。
「いいね。分かってるじゃん。【3種族同盟】なんてのは、連中を帝国にけしかける為だけのただの餌。妾はナカラみたいな頭ふわふわな妄想野郎じゃないしね…キャハハwww」
「……。」
餌…あくまでも嘘や方便であると、会議が始まる前に聞かされてはいたが…それでも心がキュッと痛むのは…何故なのだろうか。
「回収して、もしやれそうなら帝国で争う虫けら共…悪魔や精霊の実質トップを、まとめて一網打尽にしちゃいなさいな。」
「つまり…漁夫の利。という事ですか。」
神なのに…この悪辣さ。ここで反旗を翻そうものなら即座に処分される……それでは自らにかけた『審判』に反する事になる。よって……
「もう一回、説明いる??」
「いえ…分かりました。すぐに部隊を整えましょう。」
立ち上がり、すぐにでも玉座から出ようとした時…大きな音と共に白亜の城が大きく揺れた。
「…っ、エクレール!」
「現場に急行します。」
私は急ぎ、白亜の城を出て…負傷し倒れている天使に話を聞く。
「何があった。敵の数は?」
「そ、それが…たった1人…黒色のローブを着た…子供みたいで…現在、海辺付近で『破壊神』レレア様と交戦中です。」
「そうか…手が空いている者がいれば、救援に向かわせる。それまでは辛抱してくれ。」
「お気遣い…感謝します。」
……
…
砂浜で攻防を繰り広げる。
「オラオラァ!!!ガキがぁ…オレ様はなあ…クソ悪魔の所為で今、プッツンしてんだよぉ!!!!」
死に直結する一撃を、全て避けられて…侵入者が何かを呟いた瞬間…海の奥底にいた。
(マジ、クソが。ただでさえ…オレ様の妹の結婚式が迫ってる時だってのに!!まだ、スピーチの内容、考えてねんだぞアホがぁ!?)
「……ぶはぁ!!」
あのクソ悪魔みたく、天界に招かれていた訳じゃねえ…侵入者。こちらに降り注ぐ矢を全て『破壊』し…砂浜に戻る。
(あぁ?…『2人』…あのガキの側に誰か、いたような…)
ローブの所為で顔は見えないが…オレをおちょくって、笑っているのだけは分かった瞬間、思考も含めた全てを放棄して…ガキを『破壊』しにかかる。
「ハハッ!!!ノロマが。」
そのローブに触れかかった瞬間…何故か視界が歪み…強制的にオレ様の意識が途切れていく。
クククッ。このまま争い続ければ、天界にも被害が出る一方だ…負傷者が増える前に、少し場所を変えようではないか。レレアよ。
そんな、ギザで心を逆撫でされる…懐かしい声が…聞こえた気がした。
……
…海辺へと駆けつけて、戦いの形跡のみが残った砂浜の上で私は立ち尽くす。
「『破壊神』レレア様…?」
その後…天界中の何処を探しても、『破壊神』レレア様の姿を見つかる事が出来なかった。
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