第三章:婚約のカト帝国

21 君は眠り…『彼』が来る


……暗い。俺は確か…そうだ。鉱山に侵入して……カト帝国に繋がったトンネルが開通するのを、鉱石を回収しながら待っていて…


(……誰かが…俺を背負っている?)


ほう。気づいたかね。全て知っているとはいえ、心配したぞ。一信じてはくれないだろうが、一応、言っておく…アタシは貴君の敵ではない。


(知らない声…っ!?)


ククッ…今は無駄にジダバタしないで欲しい。神都…ああ今は、カト帝国か。そこに貴君を運んでいる最中なのだからな。


「は、運ぶ…だと?」


声は中世的で…この両足の引きずられ具合からして…10にも満たない子供。


(そんな奴は…カト帝国にはいない。という事は、神や天使…悪魔の可能性も…)


少しは体も頭を休めたまえよ。ここまでずっと一睡も…一度も休息を取っていないのだろう?


「……くっ。」


何故、その事を知ってい……っ!?


急に鮮明だった俺の意識が混濁し始める。


何だこれは、急に眠気…が……まさか、何かされて…っ


「まだ…俺は……」


今だけは眠るがいい…この大陸を壊す者よ。


……



今日も僕は天使…ヘラと一緒にトンネルの穴を掘っていた。


「あ。ツルハシが…天使、オロロンさんから、ツルハシの替えと、岩を入れる用のトロッコを持って来てくれ。」


「はぁーい。」


数日前、あの女神から天使についての事を教えて貰ってから、僕とヘラとの心の距離が縮まっていた。


(口移しも…最近だと、特に何も思わなくなってきたな。)


人間は適応する生き物とはよく言ったものだ。そんな事を思いながら、目の前に広がる掘るべき岩盤を見つめていると…腕がボコッと生えてきた。


「う、うわっ!?!?!?」


素っ頓狂な大声を上げて尻餅をつくと、その声を聞きつけたのか、心配そうな表情を浮かべたヘラと、ツルハシを抱えるナキスさんやトロッコを重そうに押すオロロンさんがやって来た。


「キラ。どうしたの…もしかして、敵?」


「うるさいぞ人間。耳が破裂するかと思った…あの、オロロン様……やっぱり、トロッコを押すの代わりましょうか?」


「はぁ…はぁ…な、何じゃと!?ナキス、わしはまだこうしてぇ、ふう…ふう…ピンピンしとるぞ!!!ゲホッケホ……こ、こほん。で、何かあったのか…少年?」


僕がこれを3人に説明する前に、腕が生えた岩盤に巨大な亀裂が入り…そこから2つの人影が見えた。


「キラ、下がって……危険だから。」


「えっ…あの男の子が?」


「ん。後ろに来て。」


崩れた岩盤から土煙が立ち昇る中…僕は起き上がって、ヘラに言われるままに動くと、ヘラは土煙が上がる方向に…右手を出した。


「20%…『模倣石宝』」


瞬間、右手から放たれた黄金に輝く光線が、人影ごと岩盤や土煙を焼き尽くした。


「っ、ヘラ!あそこには人が…」


「ダメだった。」


「な、何が……あ?」


ヘラに詰め寄ろうとする足が止まった。そこには、よく分からない派手派手な服を着た白い瞳の男の子と、その子に背負われた…僕にとっては見知った男がいて…


「お、オロロン様。あの子供に背負われているのって…服装といい、変な映像に出てた奴に似ているような…」


「は…ぇ…どう、して…ナカラの小童が…え?何故じゃ…分からぬ……分からぬっ!!」


足が小刻みに震えて、まるで信じられないものを見るような目で男の子を見つめ、オロロンさんは小さくそう呟くのが聞こえた。


「ナカラ……って…えっ、まだ生まれていなかった我はその事をよく知らないが、たった1人で悪魔も含めた全種族を説得し、平和へと導こうとしたとかいう…あの『秩序神』なのか!?」


「あ、ありえぬ!!彼奴は…もう既に、何者かによって…暗殺されて…だからっ、偽物に決まっておる!!」


男の子は肩をすくめて…すぐに不敵に笑った。


ククク…久々にこうして再会したというのに、まさか偽物呼ばわりとは…だが、それを無理もない事…フッ。ならば、再び…名乗るとしようか。


男の子は、背負った男をそっと地面に置いて…両手を広げた。



我が名はナカラ。大神の1柱である『秩序神』にして天界を、この大陸を統括する…いいや。



———したかった男さ。





















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