私と君で最高の革命を!
蠱毒 暦
大陸創造哀傷交響曲
第一楽章『創世』
「———♪」
何もない空っぽの黄金の器の上に、彼女はいました。
彼女以外の生き物はおらず、何もする事がなかった彼女はいつも歌を歌います。
綺麗…だなんて、言葉で飾る事すら烏滸がましい程に、美しく洗練された歌声でしたが、それを賞賛してくれる者はいません。
今までは特に気にしませんでしたが、それでも時が過ぎる事に、彼女の心には寂しさが積もってゆきます。
ついに孤独に耐えられなくなった彼女は、持っていた全知全能の力で一つの巨大な大陸を創り上げました。
第二楽章『誕生』
大陸を創り出し、器を遥か地下深くに隠してから、彼女は生命をたくさん創り出しました。
比較的、簡単に創れてそれなりの知性を持ち、生産性に優れた…人間。
人間とは異なる力が使え、彼女の歌を盛り上げてくれるだろうと創り出した…精霊。
人型ばかりで、他の生物がいたら見ていて楽しいかなと考えて創り上げた…竜。
少しだけ緊張しながらも、彼女は歌を披露してみました。
人間も、精霊も、竜も…誰もがその歌声に惚れ込み…惜しみなく喝采を送りました。
第三楽章『繁栄』
それから数百年の月日が経過すると、人間は独自に村や町を形成し、精霊は魔法で結界を張って人が寄りつかない森を住処にして、竜は洞窟や山岳で過ごすようになりました。
彼女は大陸中央に人間が作ったお城の劇場で、精霊が魔法で作った楽器での演奏をバックに歌い…歌い疲れたら、竜が持ってきてくれた果実を食べます。
彼女はついに孤独から脱却し、望んでいた幸せを享受する事が出来たのです。
しかしその裏では3種族の間で略奪、殺戮、陵辱、軋轢があるだなんて知らないまま。
無知な彼女は今日も夜まで歌を歌い、3種族からの惜しみない喝采を聞いてから部屋に戻り、暖かいベットの中で明日も楽しみだなと…小さく笑うのでした。
第四楽章『裏切り』
ある朝の事、劇場に足を運ぼうと起き上がった瞬間…視界が真っ白になりました。
気づけば、瓦礫の下敷きにされていて…助けの声に気づいた人間達が、持っていた剣で瓦礫を退けてくれました。
彼女は起き上がって、人間達に感謝の言葉を述べようとした瞬間…真っ赤な血が口元から流れました。
「………え。」
何が起きたのか理解出来ずに混乱していると…人間の1人が言いました。
「貴女には感謝している…しかし。これからは…」
——人の時代なのだ。
彼女は胸の傷を抑え、後ろから放たれる矢で体を射抜かれながら、必死で逃げて精霊が住まう森へ向かいました。
精霊達は口々に言います。
「感謝はしますが…アナタはもう用済みなのですよ。」
「もうアナタの力を頼らなくても、我々は独自で、魔法を発展させれますし。」
「人と争うのは面倒です。去りなさい…でなければ、ここで…始末しますよ?」
心無い精霊達の言葉で酷く動揺して、気がつけば竜がいる山岳へと足を運んでいました。
竜達は彼女の姿を見て、感情を押し殺しながら彼女に問いかけます。
「…何故、そんな狼藉を働いた人間や精霊共を殺さなかったのですか?」
彼女は、自分の湧き出る気持ちを言葉に出せず、代わりに灰色の瞳から涙が溢れ出てきました。
それを…竜達は黙って見ていました。
第五楽章『処刑』
数日後。彼女が目を開けると、拘束された状態で、台の上に立っていて周りには沢山の人々や精霊達がその台の周りを囲んでいました。
同じく台の上にいた人間が何かを読み上げた後…私の首を何かの装置に固定してから、猿轡を外すと周りからざわめき声が聞こえます。
「…最期に、言い残す事はあるか?」
世界を創り上げて孤独じゃなくなった事への喜びや、月日が移り変わり文明が生まれ、変容していく種族達の成長。そして…親離れしていく事への悲しみを。彼女は即興で見事に歌いきりました。
しかし…喝采の声が上がらず、全員が彼女から目を逸らしていました。彼女はそれが嫌で、また歌います。
それでも何の反応も示さずに、少しでも…誰でもいいから、歌う姿を見て賞賛して欲しい…自分の事を見て欲しいが為に、再度…歌を歌おうとして…
——ジャキン
期待していた声ではない…刃が落ちる音が彼女の耳に深く響きました。
第六楽章『傷心』
その後、彼女の魂はとある場所に幽閉され…肉体は、地下深くに放置されていた色褪せ、ヒビが入った器に打ち捨てられました。
幽閉された彼女は、深く失望し…自分の感情を切り分けて、最後まで見捨てなかった竜を新たに6頭創り出し、持っている全知全能の力を新しく創り出した種族…神と悪魔に振り分けて、大陸へと放ちました。
悲しみ以外の感情を失った彼女は、それでも器…『盆陣』に『接続』して涙を流し、大陸が魔力の枯渇によって破綻しないように魔力を循環させる…延命装置になりました。
得意だった歌を歌う事もなくなり、嗚咽で声は掠れ…彼女が大陸に存在したという事実は、忘れ去られていきましたとさ。
※拙作『彼女は歌が歌えない』より一部改変。
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