第十二話 受け入れ準備




 一八がタコを拾ってきた後、隆二たちは車に戻ってくる。漁協に寄ってクーラーボックスに氷を分けてもらい、そこにミジュンを入れて一安心。


 隆二は日登美にメールを投げておく。すると返信が帰ってきた。


『一八がペットを? これはまた珍しいわね。ネコかしら?』


(んー、ネコではないんだよね? 惜しいけど。でもなんて返すべきかな? 『一応、魚なんだけどね』、これでいいか)


 送信ボタンを押すと、すぐに返事が返ってくる。


『うちの蔵にね、未使用の水槽があったはず。こっちの用事終わったから、私の車で持って帰るわ』


(おぉ、ありがたい。『お願いします』、これでオッケー)


「一八くん」

「ん?」

「お母さんがね、水槽あるから帰りに持ってきてくれるって」

「ほんと? やった」


 一八はバケツに向かって『よかったね』とか話しかけている。隆二はそのまま車を走らせた。


 途中、街中にあるペットショップで、水槽に敷く底砂や難破船の形をした置物など、細々としたものを購入。家に着くと、隆二はミジュンの下ごしらえを、一八は風呂場にバケツを持っていき、日登美と千鶴の帰りを待つことにした。


 隆二と一八が帰ってきて、小一時間ほど経ったあたりで玄関のドアが開いた。


「あ、お母さんだ。お父さん、手伝ってくれる?」

「はいはい。一八くんじゃ持ち上がらないかもだからね」


 階段を降りて一階へ。店舗ではなく裏側から勝手口へ出て行く。普段、隆二が食材の買い出しに出かけるために使っている、先ほどまで乗っていたワンボックスカー。その隣りに駐まっている軽ワンボックス。これは、隆二が仕入れなどで普段使用している車である。


「ただいま、やーくん」


 助手席から出てくる千鶴に、一八はさっそく捕まってしまった。彼女はスキンシップ過多のため、ちょっと恥ずかしく思ってしまう。


「お姉ちゃん、おかえりなさい」

「うんうん」


 頬ずりをするは、頬に、額にキスをするわ。別に何日も離れていたわけではないが、いつもこんな感じである。朝でなければ。


 朝でなければ、というのは、千鶴は朝が苦手である。いつまで経っても起きてこない。だから毎日、一八が起こしに行くくらいである。だが、目が覚めるといつもこう。無駄にアクティブというか、元気というか。猫っ可愛がりされるのであった。


 八重寺島小学校と中学校は隣り合わせであって、毎日一緒に通学している。帰ってくるのは一八のほうが早いのだが、出迎えるとこんな感じ。だから慣れてしまった感はある。


「お父さん、あ、それ」


 するりと千鶴の攻撃をかわして、一八は隆二の元へ。千鶴的には、あとでいくらでも可愛がることが可能なため、ここはあっさり諦めてくれたようだ。


 リアドアを開けて、隆二は水槽を取り出してくれた。彼が両腕で持ち上げている水槽は、まだ未使用のものだとすぐにわかる。なぜなら、水槽にブランド名やサイズの入ったシールがまだ剥がされて折らず、その上水槽越しに彼の顔がはっきりと見えるからであった。サイズは、幅が一メートルくらいはありそうだ。


 運転席から出てくる日登美。彼女は一八を見るとすぐに聞いてくる。


「これ、部屋でいいの?」

「うんっ。ありがとう、お母さん」

「いいえ、どういたしまして。あなた、一八の部屋にお願いしてもいい?」

「はいよ、任されました」


 さすがに水槽の中にすべて入れた状態だと、隆二がいかに大人だからといって、持ち上げるのが危険な状態になりかねない。それならば、一八の部屋で慎重に準備をしよう。ということになったわけだ。


「お父さん、ここ。ここにお願い」


 出窓になっている隣りに、木製のローチェストが置いてある。その上に、水槽を置けるだけのスペースがあった。隆二が水槽を置くと、一八はさっそく底砂などを敷き始める。


「お父さん、お風呂場にある海水、お願いしてもいい?」

「あぁ、構わないよ」

「僕もタコさんたち迎えにいかないとだね」


 隆二と一八は一緒に風呂場へ戻っていった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る