第一章

第九話 魚、釣れた?




=== 前書き ===

地の文が多くてすみません。ナレーションだと思って斜め読みしていただけたらと思います

=== 前書き ===





 沖縄本島の最北端より北東に位置する場所に、リゾートアイランドとして有名な八重寺島やえでらじまがある。中央にある、水深三百メートル以上あると言われているブルーホールは全国的に有名。


 ブルーホールはどこからでも眺めることは可能だが、マリンスポーツを楽しむところは南側に多く、商業施設などが多く集まっているのも南側。この島へ訪れるための港も南側にあり、一八の家も港に近いため南側にある。


 もちろん八重寺島は、リゾートだけではなく、人々が暮らす地でもある。中ごろから北側は、東側も西側も商業施設やホテルが少なくなり、民家が多く見られるようになる。ただ、唯一常に観光客が足を止め、集う場所がある。そこが、多幸島記念館である。


 多幸島たこじまとは、守り神として千年以上もこの島を見守ってくれている存在を祭った社のある場所である。八重寺島から二百メートルほど離れた一二ある、直径二十メートルほどの小さな小島。周りは潮位が低く、船で渡るのはきけんなほど。新月で干潮時に、渡ることができる日が年に数日ある。


 途中がサンゴ礁帯であり、滑りやすく安全ではないので、きちんとした滑り止めのついている靴を履くなどをしないと、無理に渡ろうとすると安全ではない。とはいえ、景観を壊す恐れがあるのと、最悪の場合多幸島自体が崩れる可能性があるため橋をかけるわけにはいかない。


 その代わりに、この多幸島の真向かいに八重寺島役場が運営する多幸島記念館が建てられた。そこには多幸島のあらゆるところが、記念館にいながら堪能できるよう、島の模型と写真が多数飾ってある。ご神体とも言える等身大の像が展示してある。


 記念館の中にある、像を展示しているブースのでは、このようなアナウンス常時ながれていることにより、島の誰もが二人の名前を知っているのである。


『向かって左側にいらっしゃる、四本の足を踏みしめて、四本の腕を広げてこの地を守ってくれているような仕草のこの像は、口を大きく開けているシーサーのように見えるため阿形さんと呼ばれています。向かって右側にいる、四本の足を踏みしめて、四本の腕で腕組みをしている仕草の像は、口を閉じているシーサーのように見えるため吽形さんと呼ばれています』


 多幸島にいる一メートル五十センチほどあるその石像は、おおよそ千年前に作られたと言われいる。この八重寺島を背にして守ってくれていると昔から語り継がれているのであった。


 一般の人は多幸島に渡るのを禁じられているため、朝九時、昼十二時、夕方五時に係員がドローンを飛ばして、実際の映像を大画面で見せてくれるというサービスも人気である。雨天や台風の場合は、残念ながら中止させていただきますと説明にある。


 ちなみに、この多幸島を管理していたのは昔から村長の家系であったため、現在は八重寺島役場で維持されている。


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 一八が小学六年生だった夏休みの話。日曜日は美容室兼喫茶室の『あお』もお休み。一八たち四人は旧盆の準備のため、八重寺島の北にある八重寺の実家に来ていた。


 入り婿である隆二は料理以外これといってやることもないため、一八を連れて一緒に釣りに出てきている。多幸島を右斜め前に眺められる、絶景の場所で釣り糸を垂れていた。


 ちょっと大きめのウキの下には、サビキ仕掛けという針が複数本ついたもの。ウキと針の間には、コマセカゴという撒き餌を入れるかごがつけられている。チューブに入った集魚剤をコマセカゴに入れて、ちょっと離れた場所へしかけを投げ入れる。こうすることで、手を汚さないでできるのが、チューブ入りの利点でもあった。


「お父さん、魚、釣れた?」


 一八は隆二の肩越しに覗き込んで、そう聞いてくる。


「あのね一八、ついさっき始めたばかりなんだけど」

「そうだっけ? すぐに釣れるんだと思ってたんだ」


 小学六年、十二歳ではまだ、こんなにのんびりした釣りでは飽きてしまうだろう。


 手前に視線を移すと、そこには潮が引いたことによって姿を現した、潮だまりがある。一八は隆二から少しだけ離れた場所にある、リーフの潮だまりまで歩いてきていた。


 干潮で潮位が低くなっているからか、多幸島までの道が見えてきている。だから今日、一八たちはこちらへ来ていたわけだった。おそらく日登美たちは、多幸島の掃除をしているのだろう。


 ちなみに多幸島へは『八重寺の女系しか渡ってはならない』という習わしがある。だから隆二はやることがなく、一八の面倒をみるのが役目になっていたというわけだ。



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